■ドラゴン 1/144キット(その2)■


14509: Panzer Korps 27
Moerser Karl + Railway Transport Carrier

14510: Panzer Korps 28
Moerser Karl + Munitionsschelepper auf Panzer IV

パンツァー・コープの第2弾として カールのバリエーション4種のキット を2004年春に発売してから1年半を経て, このほどカールと相棒である弾薬運搬車や輸送用貨車を組み合わせたキット2種類が発売になった。 パンツァー・コープ・シリーズは2車種が1パッケージになっている商品構成が基本であるが, シリーズ開始当初は, 使用時期などから考えてあまり関連性が感じられない車種が組み合わさっている場合もあって 商品企画に疑問を感じたものだが, 今回は適切なセット内容である。

以下では新発売の2種類のパッケージを紹介する。


■カール貨車運搬セット:14509■

◆製品内容◆

下の写真は14509: Moerser Karl + Railway Transport Carrierのパーツである。 カール本体と専用の輸送用貨車のセットとなっている。





カール本体

カールIII号車からVI号車に相当する11転輪タイプの車体となっている。 パーツ点数23(エッチング・パーツと選択パーツを除く)。 既発売のキットや今回同時発売の 弾薬運搬車とのセットと比べると, 車体上部,車体前面および後面の3つのパーツが新設計, 車体側部の作業デッキが新たに別パーツとなって追加されている。 これは作業デッキを折りたたんだ状態を再現するためと, 輸送貨車のアームとカールを連結できるようにするためである。

その他の部分は他のバリエーションと共通である。 エッチング・パーツも同じように含まれている。 前回のキット では説明がなくて混乱を招いたエッチング・パーツの取り付け位置も, 今回は組立説明書にきちんと記載がある。

本キットで唯一気になるのは, 駐退器ブロックの上部が鉄道輸送のために分解して取り外された状態ではなく, 組み付けられた状態でモデル化されていることである。 古くから発表されている図面でもこの部分は取り外して貨車に搭載していることは明らかであるし, またここが付いた状態で鉄道輸送されている実車写真は一切存在しないのだが, ハセガワ1/72キット が最初にこの点について誤ってモデル化したせいで, 間違った知識とイメージが広まってしまったのだろうか。 この点を正しく再現しているのは,今のところ トランペッターの1/35キット アトリエ・インフィニティの貨車輸送状態の1/144キットのみである。 (しかし雑誌などに発表されたトランペッターのキットの記事や, ネットで公開されている作例の中には, トランペッターの組立説明書の 「正しい」指示にも係わらず間違って取り付けている例がまま見受けられる。)

また残念ながら今回のキットでも砲架の位置について明確な指示が組立説明書になく, 箱絵(写真)でも砲架が間違った位置につけられてしまっている。 貨車輸送状態では砲架は操縦手席側に寄せるのが正解。

輸送貨車

本キット最大の見せ場である。 貨車2台でパーツ数約70点。 繊細で実に見事なモールドである。 カールを吊り下げるアーム表面にある多数のリベットも細かく彫刻されていて驚異的である。 アトリエ・インフィニティの貨車輸送状態の1/144キットも よく出来てはいたが,修正や追加工作が必要な部分もあったため, 本キットは完全にその上を行っていると言ってよいと思う。。 台車本体,車輪,吊り上げアームなどのパーツはスライド金型をうまくつかって, ディテールを損なわずに部品点数を抑えることに成功している。 抜きの関係でリベットやディテールが省略されている部分もあるにはあるが, もしそこまで再現しようとすると執拗に部品分割しなければならなくなるので, このスケールのキットとしては現実的ではないだろう。

形態上の難点は見当たらない。 非常に良く出来ているトランペッターの1/35キット をそのまま1/144に縮小したかのような正確さと精密さである。

当方が入手したキットでは,目立つバリはなく,またヒケ等の成型不良も見つからなかったが, 湯口の処理が十分でないパーツがいくつかあった。

デカール

デカールはカルトグラフ製で, カール全車のニックネームと車両番号, 輸送貨車各部のレタリングが入っている。 貨車のレタリングは,このスケールでは文字が小さくて読めないので, ここまで細かいものまで用意する必要があるのか, と思う向きもあるかもしれないが,あっさり省略されるよりは余程ありがたい。 デカールを貼る位置も組立説明書で詳しく指示されている。


その他

貨車の車輪は固定されているので,もしNゲージの機関車に牽かせてみたいなら改造が必要である。 本キットは,貨車でカールを輸送中の状態に組むのが正統な楽しみ方だろうが, 組立説明書には,カールを降ろした後に貨車同士を連結した状態に組む方法も一応説明されている。 また,このキットのカールの足回りは11転輪タイプとなっているが, 弾薬運搬車とのセット から8転輪タイプの足回りを流用して,カールI号車,II号車の運搬状態を再現することもできるだろう。


◆製作記◆


  1. 台車裏には写真右のように不要な桁が入っているので切り落とします。 これがあると車輪パーツが取り付けられません(すぐにわかることですが)。


  2. パンツァー・コープのシリーズでは, ほとんどのパーツはランナーから切り離されていてすぐに組み立てられるようになっているわけですが, 湯口がきれいに成型されているとは限らず, このキットの場合には湯口や押し出しピン跡を少しきれいにしてやる必要がありました。 自分でランナーから切り離すのではないので, 「どこにそうした跡があるのか探す」という余計な(?)努力を要することになり, あらかじめパーツを切り離しておくというのも考え物だなあと思いました。 例えば吊り下げアームは素晴らしいモールドなのですが, 写真右に示すような位置に湯口のあとなどがありました。結構な数です。 なおランナーについているパーツでも, ランナーからの湯口以外の側に湯ダマリを切り離した跡があったりするので注意が必要です。


  3. カールを降ろしたあとに台車2台を連結するための棒は, カールを搭載しているときには一方の台車の側面に装着されています(右写真参照)。 キットの説明書はこの点について曖昧で, 両方の台車につけるかのような印象を受けるので注意 (おまけにキットにはこのパーツ自体が余分に入っているから余計誤解を招きます)。


  4. 車体上下の接着の際, PVC製足回りパーツのボス4箇所が新規設計の車体上部パーツと干渉するので切り落とします。 これは凡ミスですね。


  5. 車体前方(操縦席側)左右の排気管付近の「柱」が省略されているので, 適当なプラ材で追加します(写真赤の矢印)。 私はプラストラクトの0.5mm×0.5mm角棒を使いました。 また車体側面におかしな凹みが片側4箇所あるので埋めます(青矢印)。


  6. 砲回りでは,まず砲弾装填用トレイ・パーツの大きな取り付け穴を埋め, 砲身上部の駐退復座装置部分を切り落とし,写真のような形に直しました。 この部分は実車でどのようになっているかよくわかっていないので, 「それらしく」作る以外ありません。 トランペッターの1/35キット がそれらしいモールドをしているので, そちらを参考にしてもよいと思います。

    トランペッター1/35キットの場合


  7. カール本体と吊り上げアームは大きなピンで連結されているので, それらしくピンの頭をプラ板をポンチで打ち抜いたもので付けました。


  8. 貨車輸送状態なので砲架は操縦席側に寄せます。 その他ロッド類を丸棒で作り変えたり,はしごを少し削り込んだりしています。 ドラゴンの前作のキットの製作記も参考にしてください。

一通り組みあがると実に精密感があります。 特に貨車は見事なモールドでほれぼれします。

塗装はこれからです。


■カールと弾薬運搬車セット:14510■

◆製品内容◆

下の写真は14510: Moerser Karl + Munitionsschelepper auf Panzer IVのパーツである。 カール本体とIV号弾薬運搬車1台およびフィギィア6体のセットである。





カール本体

パーツ数26点(選択パーツとエッチング・パーツを除く)。 砲身は60cmの物と54cmの物の2種類が含まれている。 足回りは 既発売のキット や今回同時発売された 鉄道輸送状態のセット と違ってカールI,II号車の8転輪タイプとなっており, しかもサスペンションを上げた射撃状態と サスペンションを下げた走行状態の2種類のパーツが用意されている。 砲身と足回りの組み合わせを考えれば「4 in 1」のキットである,と言えなくもない。 過去ドラゴンは,細かい仕様の違いをバリエーションとして多種類のキットを発売する, という商品展開をしていたように思うし, 実際1/144のカールも形態の違いでこれまで4種類のキットが出ていたわけだが, 最近はオプション・パーツを多数用意して, 「いろんな種類の車両に組めますよ」ということを売りにしている傾向がある。 中にはかなり無理やり「3 in 1」の構成に仕立てたのではないかと思えるような製品もあるが, 砲身と足回りにオプション式にした本キットは, 派手さはないものの適度な商品企画だと思う。

なお組立説明書には何の説明もないが, 8転輪シャーシの車両で54cm砲身を装備したのはI号車の方のみであるはずなので注意。

足回りについてもう一つ特筆すべきは,今回は転輪パーツと履帯が別パーツ構成とされ, 履帯はPVC,転輪はABS素材となっていることである。 このため転輪パーツのモールドは, 前回のPVC素材のパーツに比べてくっきりとしており好印象である。 しかし実車では左右非対称になっている転輪配置は正しく再現されておらず, ハセガワ1/72キット 以来多くの製品が繰り返してきた誤りをまた犯してしまっている。 履帯パーツは長さが短めであり,転輪パーツに嵌めるためにはかなり引っ張って伸ばす必要がある。 PVCなので慎重に作業すれば伸びるが,もう少し長く成型しておいて欲しかった。 また履帯を嵌める向きが組立説明書では間違って指示されている。 幸い組立説明書の塗装・マーキングの説明図面には正しい向きが示されているので, そちらに合わせること。

足回り以外の部分は既発売のキットと同じであり,長所,欠点も当然同じである。 今回のキットでもまた砲架の位置について明確な指示が組立説明書になく, 箱絵(写真)でも砲架が間違った位置につけられてしまっている。 走行状態に作るなら砲架は操縦手席側に寄せ, 射撃状態に作るなら反対側に寄せること。

弾薬運搬車

カールとセットで販売される車両として最もあい相応しい。 既存のカール4種のキットが発売されたときに同時に発表されなかったのが全く不思議である。

アトリエ・インフィニティメタル・トループス のレジン・キットに続いて3つめとなる。 レジン・キットに比べて入手も取り扱いも容易なインジェクション・キットとして期待も高かったのだが, 正確さと組み立てやすさを含めた全体的な出来としては, メタル・トループスよりは上だがアトリエ・インフィニティよりは下, という感じがする。

パーツは全11点。 足回りのパーツ2点が他のパンツァー・コープのキットと同様にPVC製, 他はプラとなっている。 カール用の弾薬運搬車はIV号D, E, F型のシャーシを用いて作られているが, キットはF型ベースの車両をモデル化したつもりのようである。 モールドはかなりシャープである。 スライド金型も多用している様で,少ないパーツにディテールを豊富につけている。 ノテック・ライトが別パーツで再現されているのがこのスケールとしては驚きである (ただしなぜか組立説明書には取り付け指示がない!)。 全体にバリやヒケは少ないと言ってよいと思うが, 当方が入手したキットでは, 弾薬庫のパーツの裏に大きな押し出しピンのバリがあったのと, 車体上部パーツのパーティング・ラインが少し目立った。

砲弾は4発用意されており,そのうち1発にはグリッパが一体成型されている。

残念ながら各部の形状については明らかな間違いや疑問点も多く, 正確さでは アトリエ・インフィニティ 製品に水を空けられてしまったように思う。 以下問題点を列挙しておく。

  1. 足回り
    起動輪やダンパの形状から見て, これはH, J型の足回りであり明らかな間違いである。 おまけに燃料注入口の位置もIV号駆逐戦車のそれとなってしまっている。 パンツァー・コープのシリーズでは, No.11にIV号F2型とホルニッセのセットがあるため, F2型のパーツが流用できないかと思いきや, F2型の足回りパーツも(シャーシとの噛み合わせ部の形状が異なるだけで) 転輪やダンパ,燃料注入口のモールドは全く同じで(すなわちF2型としては間違い) 使い物にならない。
  2. クレーン
    これこそがこのキットの見せ場であるはずなのだが, 残念ながら期待外れだった。
    • まずクレーン基部(駆動部)の背が高すぎてバランスが悪い。 その分クレーン支柱の高さが低くなってしまった。
    • クレーン・アームが単純なA字型になっているのは完全な間違い。
    • このスケールでは問題点とするのは酷かもしれないが, クレーンのワイヤの張り方について組立説明書に一切指示がない。 箱の完成写真でもワイヤは省略されているので, 各自で頑張って追加する。 ワイヤの取り回しの本サイトでの解釈については 「IV号弾薬運搬車」のページを参照のこと。
  3. 弾薬庫
    上面ハッチが全て開放された状態でモールドされている。
    • 前方のハッチは4枚の板が蛇腹上に開くのが正解だが, キットは2枚の板のように見える。 ただし下手にパーツ化するとオーバー・スケールになりそうな部分でもあるので, これでも良いかもしれない。
    • 後方のハッチは,キットでは水平の位置まで開けられているが, 実車ではクレーンのトラベル・ロックがあるためにこの位置までは開かない (キットではトラベル・ロックは省略されている)。
    • 弾薬庫後面には乗員用シートがあるはずだが, キットではあっさり省略されている。
    なお弾薬庫内部については実車の詳細が不明なので, キットのモールドの正確さについては評論できない。
  4. 車体上部
    • 車体右側前部にクラッペ状のモールドがあるが,実車にはこの位置にクラッペはない (トライデントの1/87キットも同じ間違いを犯している)。
    • 車体右前方,クレーンの右側のフェンダーにあるはずの折りたたみ式の足場が省略されている。 キットのフェンダーには何か網目状のモールドがされているので, これが足場のつもりなのだろうか。 この足場は アトリエ・インフィニティメタル・トループス のキットでは再現されているので, そちらを参考にして追加すると良い。
    • フェンダー上には一部OVM類のモールドもあるが省略されている物も多いので, 気になるなら追加する。 左フェンダー前方にC型のシャックルがモールドされているが, 実車ではS型のシャックルのはずである。
    • 後部の乗員用シート下にある乗員の足置き(?)には予備転輪がモールドされているが, これは一部の車両では確認できるものの標準装備ではなかったのではないかと思われる。
    操縦手ハッチの後方にあるのではないかと思われている, もう一つのハッチのモールドがないが, これについては確実な資料や写真がないので間違いであるとは断定しないでおく。

デカール

同時発売の 鉄道輸送状態のキットと共通のものが用意されており, 8転輪シャーシのI号車,II号車のニックネームであるAdam, Evaのみならず, カール全車のニックネームと車両番号が入っている。 弾薬運搬車用のデカールは一切ない。

車体にAdam, Evaのニックネームが描かれていることが確認できる戦時中の写真は発表されていないが, クビンカに保存されている車両(車体はVI号車Ziu,砲身回りはI号車Adamのものであるらしい) の調査の結果, ある時期にAdamの文字が駐退器上部に描かれていたことが 資料[38] で明らかにされている。

I号車は1943〜44年ごろにはBaldur,1944年夏にはRexというニックネームがペイントされていたことが 写真で確認されており,できればこれらもデカールで用意して欲しかった。

その他

フィギィアが6体含まれている。 既発売のキット と同じもので素材はPVCである。 組立説明書には,ダーク・グレーにAdamのニックネームのI号車, ダーク・イエロー単色にEvaのニックネームのII号車, が塗装例として掲載さているが, こうした状態の戦時中の写真は発表されていないので, あくまで参考例と考えるべきである。 今回もまたカール本体用として既発売のキットと同じエッチング・パーツが入っており, 使用方法も組立説明書に指示がある。 さらにこれまでにない目新しい「おまけ(?)」として,芝状のシートが一枚入っている。 手軽に情景や展示台を作るためということだろうか。


◆製作記◆

カール本体
足回り以外はドラゴンの以前のキットと同じなので, 手を加えた部分は そちらの製作記とほぼ同様… ではなくて今回はかなり手を抜きました(笑)。

キャタピラの装着方向は左の写真が正解です。

サスを縮めた射撃体勢なので砲架は後ろ(操縦席と反対側)に寄せてあります。

弾薬運搬車


  1. いかんせんクレーンの出来が悪いので,クレーンの支柱とクレーン・アームを作り変えました。 寸法は現物合わせで適当にやっています。


  2. 足回りではドライブ・スプロケットをパテ盛りしてF型のものらしくしてみました。 …が、今ひとつですね。


  3. ノテック・ライトが別パーツになっているのに対して, 普通の前照灯はフェンダーと一体成型で情けないので, 少し削りこんでレンズ部にプラ板をパンチで丸くくりぬいて貼ってみました。


  4. 車体右側面に誤ってモールドされているクラッペは削り落としました。 車体上部パーツ側面にはパーティング・ラインが目立つのでペーパーがけしてきれいにします。 また省略されている折りたたみ式の作業足場を追加(折りたたんだ状態)しました。


  5. 弾薬庫後面の補強リブのモールドのうち,不要な部分(写真の青線の部分)を削り落としました。 また乗員席が省略されているので追加し,足置き部分の長さが足りないので車体左方向に延長しました。

あとはワイヤを張って塗装です。


■メーカー・サイト■

Dragon Models


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Created: Monday, September 12, 2005
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