■IV号弾薬運搬車■

IV号戦車D, E, F型のシャーシを用いて合計13両がされた。 いずれも新造のシャーシを用いて作られたという (資料[64])。 D型ベースのものは1939年に作られた1両のみで残りはE, F型ベースと思われる。 なお従来資料[30]等では, これらの13両以外にも既存のIV号戦車からの改修で数量が作られたと考えられていた。

基本的にシャーシそのものはIV号戦車そのままで, 車体前部の2.5トン・クレーンや後部の弾薬庫などの上部構造物が新設計である。 もとになったシャーシの違いを除けば,各車の上部構造物には大きな外見上の違いはないようだ。 ただし車体各部のOVMに関しては細かな違いがあるように見える。

弾薬庫には砲弾4発を搭載しており,上部および側部が開閉できるようになっているほか, 前部の壁は取り外しが可能だったとされる (資料[64])。

前線へのカールの砲弾の輸送には,4.5トン・トラックや クレマイヤー・トレーラーが用いられた ようなので (資料[37]), 本車の任務はトラックやトレーラへの弾薬の積み下ろしのためのクレーンとして役割と, カールの装弾トレイへの砲弾の供給であったと思われる。 搭載できる砲弾は4発しかないから,カールの布陣している近辺には, 砲弾を積んだトラックやトレーラがあり,そこから本車2両がピストン輸送したのであろう。 カールは1時間に4〜5発しか発砲できないので,これで十分だったということか。

本車両についてはいろいろ写真が残ってはいるものの,詳細については不明な部分も多い。 特に車体上面や後部の弾薬庫内部についてはよくわかっていない。 以下に主な疑問点についてまとめておく。

  • 正式名称は?
    本車両の名称については など資料によって違いがある。 またSd.Kfzナンバーが付いていてもよさそうであるが, 言及している資料は見当たらない。

  • 弾薬庫の内部はどうなっているのか
    車体後部の弾薬庫部分には4発の砲弾が搭載できるようになっていたとされる。 砲弾の径や全長の違いから,砲弾の固定のための治具が数種類装着されていたのではないかと 想像できる。 また,leichte Betongranateなどはカートリッジや炸薬が砲弾本体とは別に必要だったので, それらを置くスペースもあった可能性がある。

    弾薬庫はエンジン・ルームの上にあるので, エンジンの点検・整備のためのハッチがあった (資料[64])。 通常のIV号戦車のエンジン・ルーム・ハッチと類似した大きさ,形であったようだが, 詳細は不明である。 弾薬庫の左右の壁があるため, ハッチを開けた際にはIV号戦車のように車体の左右にはみだすぐらいに全開にはできないと思われる。 したがってハッチがあったにしても形状やヒンジの方向は独自のものであったのではなかろうか。

    またハッチにはルーバーがついていただろうか。 弾薬運搬車の最初の1両が製作されたのは1939年で,ベースとなったのはIV号D型であった。 この時期のIV号戦車のエンジン・ハッチにはまだルーバーはなかったことから考えて, 弾薬運搬車のエンジン・ルーム上面にもルーバーはなかったと考えるのが自然ではなかろうか。 以後E型やF型をベースとした弾薬運搬車が作られているが, それらはどうだったのだろうか。

  • 車内はどうなっていたのか
    砲塔がない分車体中央内部には大きなスペースがあったはずである。 前部のクレーンは,IV号戦車の砲塔旋回用の発電機が転用されたらしいので, クレーンのための特別な機材が車内に追加装備されたわけではないと思われる。 となれば,この空きスペースは何に使われたのだろうか。

    資料[64]は, 1941年版のカールのマニュアル(アバディーンにある資料のことと思われる)にある記述を引用して, 車内には炸薬が搭載され, それらを出し入れするためのハッチが操縦手用ハッチに並んで設けられていた, としている。 確かに弾薬運搬車の写真をよーくにらむと, 操縦手用ハッチの後ろにもう一つハッチがあるかのような, ヒンジとも見える部品が車体前部上面にあるようにも思える。

1944年9月の報告では,12両が稼動中であったとされている (資料[27] [37] [64])。 その内訳は

  • 428及び638重砲兵中隊に計6両
  • 兵器局2両(60cm砲弾用)
  • 54cm砲弾用に改造されたもの2両
  • その他2両
となっている。 13両製造されたわけだから1両足りないが, 資料[32] 127ページにはセバストポリでソ連軍の砲撃により破壊されたとする残骸の写真があるので, 1942年に1両は破壊されてしまっていたと言う事で一応つじつまは合う。

現在知られている限りこの弾薬運搬車はどこにも現存していないが, 米軍は少なくとも1両を捕獲し, ある時期までアバディーンの戦車試験場に保存していたらしい。 かなり損傷が激しく,クレーン・アームは曲がり弾薬庫の壁も壊れた状態だった。 米軍はII号砲,V号砲を捕獲しているので,そのどちらかと一緒に手に入れたのであろうか。 この車両を前後から撮った写真2枚は多くの資料で見ることが出来る。 また資料[1] にはアバディーンで展示中の貴重なカラー写真がある。


■IV号弾薬運搬車の形態上の特徴■

基本構造

本車はIV号戦車D, E, F型のシャーシの上に新設計の上部構造物を載せたもので, シャーシそのものに外見上の変更はないようだ。 E型ベースの車両の場合,車体下部側面には戦車型同様に増加装甲が装着されている。 またエンジン,トランスミッションなど車内の基本的なレイアウトにも変更はないと思われる。 本車の特徴である車体上部,後部の弾薬庫は,見るからに薄い鋼板でできており, 装甲鋼板ではなく通常の鋼板である可能性もある。

車体左前部には操縦手席がある。 操縦手用のクラッペが車体上部前面と左側面に設けられている(図1 d)。 これは特に装甲が施されているわけでも, 分厚い防弾ガラスがはめ込まれているわけでもない,単なる素通しのガラス窓のようである。 操縦手の乗降用のハッチが上面に一つある(図1 l)が, 開く方向が戦車型とは逆になっておりヒンジがハッチ後方についている。 ハッチ自体の寸法も戦車方に比べて大きいように見える。 ハッチ周辺には跳弾板などはないようである。

操縦手用のハッチの後方には, 上で触れたようにようにもう一つハッチがあるらしい(図1 m)。 これも開く方向は操縦手用ハッチと同じでヒンジはハッチ後方にあるように思われる。

車体上部左側面には,ブレーキ用排気ファン口(図1 k)があるが, 特にカバーや装甲はつけられておらず, 単なる丸い穴となっている。 またエンジン・ルーム左右の吸排気グリル(図1 v)は,戦車型のものに似ているが全く別物で, 本車独自の形状をしており,また戦車型のフェンダー上に見られるグリル・カバーはない。

本車には通信機は搭載されていなかったらしく,車体のどこにもアンテナは見当たらない。

乗員は操縦手,操作員3名の計4名である。 操作員3名用には弾薬庫後面にベンチ(図1 w)が設けられている。



Fig.1 車体基本レイアウト(No Scale)

クレーン

車体右前部に装備された砲弾移動用クレーン(図1 x, 図2)は, 電動モータによって,旋回,クレーン・アームの上下, 吊り上げフックの上下動作を行う。 モータ用の電力は専用の発電用エンジンによって供給されるが, これは通常の戦車型のIV号戦車にあった砲塔旋回モータ用の発電エンジンをそのまま流用したものだった。 クレーン基部にはアームとフックの上下動のためのワイヤ・ロープの巻上げ用のドラム (図2 X)がある。 このドラムは一見ひとつに見えるが, アームの上下用とフックの上下用の二つのドラムが並んで配置されているようだ。 前方から向かって右がクレーン・アームの上下用のワイヤ(図2の青いワイヤ)のドラム, 左がフック上下用のワイヤ(図2 赤いワイヤ)のドラムと思われる。 アーム上下用のワイヤは, ドラムからクレーン支柱頂部(図2 Y)の滑車を経てアーム先端(図2 Z)に至り, ここから折り返してクレーン支柱頂部に渡され, 再度アーム先端に戻ってからクレーン支柱頂部側面の小アーム(図2 W)に固定されているらしい。 フック上下用のワイヤは,ドラムからクレーン支柱頂部を経てアーム先端中央に至り, ワイヤはここからフックに向かい(図2 A), アーム先端方向に戻って(図2 B)ここで固定されている。

クレーンを運用する際には,モータの動力は,操作員によって適宜クレーン旋回動作, アーム上下ドラム回転動作,フック上下ドラム回転動作,に切り替えられており, そのためのクラッチ機構がクレーン基部の構造物(ギヤボックス?)内部にあると考えられる。

クレーン支柱は後方に倒すことができる構造になっており, 移動時などに車高を低く抑えられるよう配慮されている。 また弾薬庫後部には移動時にクレーン・アーム先端を固定しておく受け具 (トラベリング・ロック?)が設けられている(図5 A)。


Fig.2 クレーン(No Scale)

砲弾グリッパ

砲弾を吊り上げるには専用のグリッパを用いる(図3(a))。 砲弾の口径と砲弾の長さに合わせて数種類があったらしい。 写真では600mm schwere Betongranate, 600mm leichte Betongranate, 540mm leichte Betongranate用の3種類が確認できる。 (資料[64]では, 600mm schwere Betongranate, 600mm leichte Betongranate, 540mm schwere Betongranate, 540mm leichte Betongranate用に計4種類があったとしている。) 各砲弾用で図3(a)のD, Lの寸法が異なる。

グリッパは使わないときは車体右前部(図1 n,図3(b))に設けられた受け具の上に置かれていた。 カール開発の当初は,砲弾は600mm schwere Betongranateしかなかったので, グリッパの受け具も1セットしかなかったようだが, 後の写真を見るとグリッパの寸法に合わせて数セットの受け具が取り付けられていることが確認できる。 600mm schwere Betongranate用のグリッパーの場合図3(b) a-eの受け具が, 600mm leichte Betongranate用はa-cの受け具, 540mm leichte Betongranate用はb-dの受け具の上に置かれた。 a, eの受け具はすべての運搬車に取り付けられていたが, b, c, dは車両によって付いている場合とない場合があるようである。


Fig.3 砲弾グリッパー(No Scale)

弾薬庫

車体後部の弾薬庫上面は5枚のハッチで覆われている(図1 y1-y5)。 後方のハッチ(y5)は後方に,前方の4枚のハッチ(y1-y4)は左右に観音開きで開く。 また弾薬庫側面前部(図1 y6)も側方にわずかに開く。 図4にハッチの開き方を示す。 図4 A部分にはハッチ同士を固定する金具があり, また側面ハッチには上面ハッチを開いた状態で支える支柱(B)がある。 側面ハッチは図に示した程度の角度しか開かないようである。 側面ハッチをこの状態で止めるためのストッパーもしくは支柱が弾薬庫内部にあるようであるが, 詳細はよくわからない。

弾薬庫前部の壁は取り外しが可能だったとされるが (資料[64]) 外した状態を写した写真は現在のところ見つかっていないようだ。 また上面ハッチy1-y4と左右側面ハッチy6は, 大戦後半の写真では取り外されてしまっている場合が多い。 臨時に外したというよりは完全に撤去してしまったようで, 側面ハッチ下端のヒンジすら見当たらない。


Fig.4 弾薬庫ハッチ(No Scale)

OVM類

本車のOVM類は基本的には戦車型に準拠した配置になっているようだが, 一部上部構造物や他の装備の都合で移動されているらしい部分も見受けられる。 図1は製造時と思われる写真をもとに配置を推定して描いてある。 なお前線においてはOVM類は紛失したり, 移動したり,固定せずに無造作にフェンダー上に置かれていたりするので, この様な配置になっていない写真も多数あるので注意。

  • ライト類(a): 前照灯と警笛のほか,F型ベースの車体ではノテック・ライトを装備している。 ただしノテック・ライトは,この時期の各種戦闘車両と同様に, D,E型ベースの車体でも随時あとから追加装備されたと考えられる。
  • シャックル(b)
  • スパナ(c)
  • 消火器(e): E, F型ベースの車体では, この位置以外にもqの予備キャタピラに代わって2個目の消火器が付けられている。
  • ジャッキ台(f)
  • 足掛け(g)
  • 履帯緊張調整具(h)
  • スコップ(i)
  • バール(j, s):大小2個確認できる。
  • クランク(o)
  • ジャッキ(p)
  • 予備キャタピラ(r): 3個。D型ベースの車体ではさらにqの位置にも1個取り付けられている。 1944年頃の写真では予備キャタピラは車体左側フェンダー後部に置かれている車両も複数確認できる。 固定金具も含めて移動したのかどうかはよくわからない。
  • (t): F型ベースの車体ではここに搭載されている。 はっきり確認できていないが,D, E型ベースの車体でもここにあると見て間違いないと思う。
  • 履帯工具(u1): D, E型ベースの車体ではこの側面に履帯工具がある。 F型ベースの車体では折りたたみ式の新型工具に換えられu2の位置に装備されている。

これ以外にワイヤ・カッターや牽引用ワイヤ・ロープがあって然るべきと思われるが確認できなかった。

D, E型ベースの車両の車体後面

  • A: クレーン・アームの受け具(トラベリング・ロック?)。
  • B: クレーンのフックを引っ掛ける受け具。
  • C: 乗員用シート(2名分)。車体左に寄っていることに注意。
  • D: 乗員の足置き(作業用の足場としても使われた?)。 予備転輪を置いている場合もあり。
  • E: 排気管口は車体下方に伸ばされている。 クレーンのモータ用発電機の排気管は通常の戦車型と同じように配置されている。
  • F: 反射式尾灯。 さらにD型ベースの車両ではGの位置に丸型尾灯が, E型ベースの車両の実戦時の写真では (F型車台と同様に)Hに車間表示灯, Iに丸型尾灯を装備していることが確認できる。 IV号戦車をはじめ大戦初期の独軍の各種戦闘車両では, 車間表示灯,尾灯などは整備時などに追加される例が多かったから, D型ベースのIV号弾薬運搬車でも製造後に改修を受けてE, F型と同様になった可能性もある。
  • J:ファンベルト・アクセス・ハッチ。 通常のIV号戦車とはヒンジのつく位置が左右逆になっている。


Fig.5 D, E型ベースの車両の車体後面(No Scale)

F型ベースの車両の車体後面

  • A: 受け具の根本の補強用(?)のリブが長い。
  • E: 排気管はF型の形式になるが,口はやはり下方に伸ばされている。
  • G: クレーン・モータ用発電機の排気管口も下方に延長されているように思われるが 詳細は不明。図の形状は推定。
  • H: 車間表示灯。
  • I: 尾灯。さらに左フェンダー端には反射式の尾灯もついている。
  • J:ファンベルト・アクセス・ハッチ。 通常のIV号戦車とはヒンジのつく位置が左右逆になっている。


Fig.6 F型ベースの車両の車体後面(No Scale)


■弾薬運搬車のキット■

  • ハセガワ1/72

    ミニボックスNo.33「ドイツ カール&4号特殊弾薬運搬車」
    カール本体とセットで世に出たキットである。 本車のインジェクション・キットとしては世界初の物であったはずである。 発売時期と「おまけ」的な扱いであったことを考えると, まあこんなものかな,という出来である。 厳しいかもしれないが, カール本体と輸送貨車の素晴らしさを考えるとワンランク評価が落ちてしまう。 とは言えハセガワの1/72としてはIV号戦車関連のキットはこれが最初であり, その後ハセガワから発売されたIV号F/G/Hはこのシャーシの設計を受け継いでいる。

    手を入れるとすると以下のようなポイントがあるだろう。

    • クレーン
      アームの付く向きが組立説明書どおりだと,実車と反対向きになってしまう。 またワイヤーの張り方も説明書は誤り。

    • 弾薬庫
      キットでは3発しか搭載できないようにモールドされているが, 実車では4発搭載していたことになっているので修正する。 また弾薬庫の屋根となるハッチが後半部分しかないので,前半部分を自作する必要がある。 ただし1944年ごろの実車写真では,前半部分の上方のハッチと側面ハッチを取り外してしまっている (作業性が悪いからか?)ようなので, 大戦後期の状態のつもりでそのようにしてもよいだろう。

      弾薬庫後面の乗員席と足置き(?)の幅が狭すぎるので修正する。

    • シャーシ
      起動輪やダンパの形状,車体後面下端の形など全体にIV号H, J型のような表現になっている。 その一方で排気管はD型のような長いタイプになっている。 現在はハセガワのIV号駆逐戦車,レベルのH, J型など良いIV号のキットもあるから, シャーシはそれらのキットをベースにしてD, E, F型に改修して作るとよいと思う。

    詳しくは 「ハセガワ1/72 IV号弾薬運搬車」 を参照のこと。


  • ホビーボス1/72

    #82907
    Munitionsschlepper PzKpfw IV Ausf D/E


    #82908
    Munitionsschlepper PzKpfw IV Ausf F
    ハセガワの1/72キットから30年以上の月日を経て発売された, 待望の新製品である。 トランペッターの1/35キットをベースに縮小して開発されたらしく, 全体的なキットの構成,細部ディテールの解釈などはトランペッターに準じており, ハセガワに比べると大幅な改善と言える。

    ただし,なぜか車体後部の弾薬庫のハッチがすべて閉じられた状態でパーツ化されており, カールの横に置いて給弾中の情景を再現したければ少々の改造が必要であることと, 各種OVMの多くがフェンダーに一体成型されているので,ディテールアップしたくなるところである。

    本車の見せ場であるクレーンもよくできている。 組立説明書ではクレーンのワイヤの張り方がいまひとつ判然としないので, このページのクレーンの項を参考にしてほしい。

    砲弾は60cm重ベトン弾が4発付属している。

    その他詳しくは 「ホビーボス1/72 IV号弾薬運搬車」 を参照のこと。


  • シュミット・モデル1/35(コンバージョン・キット)

    1166 "Munitionspanzer IV fuer Moesor Karl"
    イタレリのIV号戦車F/G型のキットを弾薬運搬車に改造するための, バキュフォーム製コンバージョン・キット。 1/35の製品としては最初のものである。

    全体にハセガワのキットをスケール・アップし, クレーン部のディテールを改善したような構成である。 弾薬庫には3発しか搭載しない設計になってしまっていたり, (ハセガワのキットでも省略されている)弾薬庫前半部の屋根がなかったりするので, 作ろうと思うと結局フルスクラッチと同じぐらいの手間がかかりそうである。 CMK等のキットがある現在としてはあまり存在価値は感じられなくなってしまったのは仕方のないところか。

    かなり古いものであるので,現在は入手困難ではないかと思われる。


  • CMK 1/35

    RA002 "Panzerkampfwagen IV Munitionstraeger fuer Karlgeraet"
    まがりなりにもまともな1/35の弾薬運搬車単独のキットとしてはこれが最初のものである。

    モールドはまずまずであり,クレーン部分もそれらしくできている。 一部にエッチング・パーツも使われている。 砲弾は4発ついており表現もそれらしい。 気泡や成型不良は見当たらなかった。 詳細が不明な弾薬庫の内部については写真のような形になっている (購入したものは砲弾固定用ベルトの支柱が破損して欠落していた)。 ルーバーは通常のIV号戦車並みに付けられているが, ハッチはない形になっている。 あとは砲弾の受け治具があるだけと, ちょっと大雑把な感じの表現であるが,実車の様子がわからない以上, 手を入れるにしてもそれらしくでっちあげるほかない。

    弾薬庫のパネル表面にはリベットが一切つけられていないのが残念。 OVM類も一通り揃っているが,可もなく不可もなく,といったモールドなので, タミヤのIV号戦車装備品セットなどから持ってきたほうが見栄えが良いと思う。

    フル・レジン・キットであるが, キャタピラと起動輪,誘導輪はアカデミーのインジェクション・パーツが同梱されている。 転輪はレジン製である。 ただし起動輪はH, J型の物で, キャタピラはハの字型の滑り止めの付いた後期タイプになってしまっており, 弾薬運搬車としては不適当である。 レジン製のシャーシは見るからにタミヤの新IV号H初期型やJ型のキットに酷似しており, デッド・コピーではないかとすら思ってしまう。 カール用の弾薬運搬車はIV号D型〜F型をベースに作られているので, H〜J型のシャーシでは問題がある。

    こうしたシャーシや足回りの問題と, 車体後面の排気管が横に長いD, E型のようなタイプになっていることなどから, 全体としてD, E, F型のどれをベースにした車体のつもりで製品化したのか曖昧である。 いっそのことタミヤ,ドラゴン, イタレリのキットからシャーシと足回りを, まずD〜F型仕様に改修してそっくり流用したうえで, 車体上部,クレーンのみこのキットの部品を用いたほうが作りやすいかもしれない。 弾薬庫部分は基本的に板状の部品の組み合わせであるので, 十分歪みをとってから組まないといびつな形に仕上がってしまいそうである。 また,クレーンのアームも強度とか後々の変形を考えると金属棒で補強するか作り直すことを考えたほうがよいかもしれない。

    ■レビュー,製作記事■

    1. ホビージャパン, No.410, 8月号, 2003.
      青木周太郎氏による作例。 ただし大幅に手を加えており,キットの部品で使われているのは, 主にクレーンと車体左右のグリルなどのみである。 シャーシはタミヤIV号J型をもとにE型に改造してある。 車体上部はほとんどフルスクラッチで, キットではあっさり無視されていたリベット類も再現している。

    部品の一部(この他に転輪と履帯のパーツがある)


  • ADV/Azimut 1/35(コンバージョン・キット)

    35190 "Munitions Pz IV"





    ADV/Azimutからは レジン製コンバージョン・キットが出ている。 タミヤのIV号戦車のキット(J型又は新版ヴィルヴェルヴィント) のシャーシと足回りを利用して, カール用弾薬運搬車に改造するためのパーツである。 ただし, 残念ながらタミヤのJ型シャーシを「正確な」F型のシャーシにするために必要な改修については 一切説明されていない。 言い換えれば,タミヤのパーツは無改造で使うようにしかなっていないのである。 F型のシャーシを作るにはタミヤならH初期型のキットをベースにする方がよいはずだし, 正確さを期すには各自の努力が必要,ということになる。

    タミヤ用とは言え,少々の手間でイタレリ,グンゼ,ドラゴン, トライスター等の製品にも適合するのではないかと思われる。 弾薬運搬車はIV号戦車D〜F型のシャーシを利用して製作されているので, D型ベースの車両にするなら,ドラゴン,トライスターのキット, E型ならドラゴンのキットを用いることが考えられる。 IV号戦車F型のキットはイタレリとグンゼ(ドラゴン)から出ているが, イタレリのキットは70年代の古いものであるから, グンゼ(ドラゴン)のF型を使うかドラゴンのE型やタミヤのH初期型を改造するのが良い。

    本製品にはレジン・パーツが約80点とエッチングが1枚が含まれている。 クレーン用のワイヤやデカールはない。 レジン・パーツの成型状態は良好で,気泡などは見られないが, 一部のパーツの型分割位置付近に型ズレと思われる不良が少々あった。

    先行したCMKの製品と比べてみると, パーツ構成やディテールが驚くほど似ている。 一部のパーツ分割は異なるため,全てのパーツが全く同じというわけではないし, 特にエッチング・パーツに関しては完全に別物であるので, CMKからパーツの供給を受けたとか, 型や原型を入手したというわけではなさそうである。 CMKのキットを「参考にして」設計した,ということなのだろう (あるいは原型をCMKから譲り受けて少々アレンジを加えてから型取りした, という可能性も考えられるが)。 特に, 詳細がわかっておらずしたがって想像(妄想?創作?)するしかない弾薬庫内部が CMKとほぼ一致していることからして, 独自に開発しました,とはなかなか主張できないだろう。 幸いCMKのキットはよく出来ているので, それを見習った本製品もそこそこ良いものに仕上がっている。 しかし,CMKのキットで省略されていた弾薬庫各部のリベットなどのディテールは 本製品でも付けられていないのは残念。

    4発付属している砲弾は,CMKのパーツよりも良くなっているのだが, どうもこれはドラゴンのアルミ製の砲弾パーツに少し手を加えたうえで複製したのではないか と疑ってしまう。

    なお,当方が入手したものは,梱包状態があまりよくなかったのか, 一部の小パーツに破損が見られた。

    本コンバージョン・キットとタミヤのヴィルヴェルヴィントのパーツを組み合わせた 「コンビ・キット(combi-kit)」が, ADV/Azimutの別ブランドであるBest Value Modelから発売されている (下記参照)。 2006年現在日本にはADV/Azimutの正規代理店がないらしく, 本製品も下記のコンビ・キットも入手が容易というわけにはいかないが, CMKのIV号弾薬運搬車も入手困難な状況にあるので, 1/35で本車を作りたければ本製品(か又はコンビ・キット)も現実的な選択肢と考えてよい。


  • Best Value Model 1/35
    35016 "Munitionstragger Auf Panzer IV Ausf F fuer Karl Geraet 040/041"

    2006年初頭に発売になり, すわ1/35の弾薬運搬車の新キットか!と思われたのだが, その実態は 「タミヤの(新)ヴィルヴェルヴィントのシャーシと足回りのパーツと, (上述の)ADV/Azimutのコンバージョン・キットを一つにパッケージ」 したものであった。 こうしたキットを海外ではCombination KitとかCombi Kit(コンビ・キット)と呼ぶらしい。

    不勉強にしてBest Value Modelという名前は知らなかったのだが, フランスのADV/Azimutの持っているブランドの一つなのだそうである。 ADV/Azimutは,Azimutブランドではレジン・キットを, Ironsideブランドで簡易インジェクション・キットを, そしてBest Value Modelブランドでは 複数の市販キットやパーツにオリジナルのレジン・パーツ,エッチング, メタル・パーツを加えたコンビ・キットを販売する, というようにブランドを使い分けているとのことである。 コンビ・キットには, 既存パーツをうまく利用してセットで販売することで価格が抑えられたり, 各パーツやキットを個別に入手する手間が省ける,という利点があるし, 入手し難いパーツがあって個人では同等のものを揃えきれないような場合には 便利であることには間違いない。

    ただ少なくとも日本ではタミヤのキットの入手は容易であるし, ヴィルヴェルヴィントのIV号J型シャーシは本車を作るベースとしては適切とは言えないので, 本コンビ・キットを買うよりはADV/Azimutのコンバージョン・キットを入手するほうが, 結局はコスト的に有利かもしれない。

    コンバージョン・パーツの詳細と,タミヤのキット・パーツを使う場合の問題点については, 上述のADV/Azimutのコンバージョン・キットを参照のこと。


  • トランペッター1/35
    00362 "German Panzerkampfwagen IV D/E Fahrgestell"

    00362 "German Panzerkampfwagen IV D/E Fahrgestell"
    2007年1月,待望の1/35インジェクション・キットがトランペッターから発売になった。 本車両の名称としては製品名が適切でないところが紛らわしいが, まぎれもなくカール用の弾薬運搬車である。 トランペッターは本キットを「エキスパート・シリーズ」の第1弾と位置づけており, プラ・パーツ総数675(連結式キャタピラを含む), エッチングが6枚,アルミ製砲弾2個, PVCの透明シート,フェンダー用金属スプリング,銅線2本, キャタピラはベルト式と連結式の選択, など,豪華な内容になっている。 トランペッターのカール本体 やK5(E)列車砲,BR52蒸気機関車のキットでは, かなり細かい部品分割が行われていたため, 本キットもそうした多パーツ路線かと予想したが, 恐れていたほど過剰なパーツ分割にはなっていないようである。

    本キットは, 製品名称(および事前のアナウンス) からはシャーシをIV号戦車D型かE型から選択できるような印象を受けるが, パーツとしては実際にはD型シャーシ用のものしか含まれていない。 砲弾は60cm schwere Betongranateと60cm leichte Betongranateが プラパーツで各4個ずつ含まれているのに加えて, アルミ削り出しの砲弾が各1個付属する。

    本車の場合弾薬庫内部など不明点も多いため, いかにそれらしくまとめるか興味があったが, トランペッターは全体にそつなく設計を行ったように思える。 車体上部,クレーン,弾薬庫などの本車の特徴的な部分では, 実車写真で判明しているところについてはかなりよく出来ているように思えるし, 不明部分もそれらしく作られており, 大きな問題点は特にないようである。

    シャーシや足回りに関しては, 最近のドラゴンやトライスターのIV号戦車のキットと比べるとあっさりとした印象である。 どうも各社のキットを研究・参考にしたと思われる部分も多々あるが, 「いいとこ取り」とは行かなかったようだ。

    詳しくは 「トランペッター1/35 IV号弾薬運搬車」を参照のこと。


  • トライデント1/87(HO)

    87032 "Munitionstraeger Pz.IV"
    バリや気泡,成型不良も少なくかっちりしたモールドで好感が持てる。 OVM類はほとんど含まれていない。 一応シャベルとワイヤー・カッターがエッチング・パーツで含まれているのだが, あまりできもよくないので, もし適当なキットがあればそちらから流用するのが良いかもしれない。 部品は約40点。 クレーンの表現に不満もあるが (支柱が細すぎ,クレーン基部のモーターやギヤボックス部分の高さが高すぎる), 全体によくまとまっており, 1/72のハセガワのキットよりも出来は良いと思う。

    詳細は 「トライデント1/87キット」 を参照のこと。


  • アーティテック1/87(HO)

    80112 "Munitionspanzer"
    上記のトライデントのキットと全く同様の内容となっている。


  • アトリエ・インフィニティ1/144

    G-036 カール型兵器用弾薬運搬車(給弾時)

    G-037 カール型兵器用弾薬運搬車(自走時)
    9種類ものカールのバリエーションを発売しているアトリエ・インフィニティからは, 弾薬運搬車のレジン・キットも2種類出ている。 「給弾時」のキットは弾薬庫の天井と側部パネルを開放した状態に成型されており, グリッパに一体成型された1個と弾薬庫内に3個の計4個の砲弾が付属する。 「自走時」のキット(「自走時」よりは「移動時」のほうがより的確な表現だと思うが)では, 弾薬庫は全てパネルが閉じられクレーンは折りたたまれた状態をキット化している。 砲弾は付属しない。 なお「自走時」のキットのクレーンは, (キットの説明書に特に解説はないものの)支柱を立てた通常の状態にも組める。

    シャーシの形態から見てF型ベースの車両のつもりのようである。 フェンダー上のOVM類は,ライト類以外は省略されている。 グリッパの造形,砲弾の底部分の模様など,全体によく出来ていると思うが, 車体後面の乗員用シートと足場の巾が狭すぎたり (ハセガワのキットを参考にしたのか?), 排気管の取り回しがおかしい,など若干の難点もある。 いずれも修正可能な程度の誤りなのであまりとやかく言うべきではないかもしれない。 成型状態,バリ,気泡等については,ガレージ・キットとしては平均より上と思うが, 下記の メタル・トループスのキット の「切れの良さ」と比べるとちょっと物足りなさを感じる。

    詳細は 「アトリエ・インフィニティ1/144キット」 を参照のこと。


  • メタル・トループス1/144

    MT-8007 Munitionspanzer IV
    レジン成型技術で評判の高いメタル・トループスからも弾薬運搬車が販売されている。 モールドの状態は確かに素晴らしいのだが, 同社のカール本体のキットと同様, ハセガワの1/72キットを正確に縮小したと言わざるを得ないデザインであり, ハセガワのキットの欠点は全て引き継いでしまっているのが残念。 このため,上記の アトリエ・インフィニティのキットと比べた場合, 成型技術では勝るものの, 「スケール・モデルとしての正確さ」の面では劣る点も多い。 ただしアトリエ・インフィニティのキットも完璧ではないので, 手を加えることを前提とした場合に どちらのキットが総合的に見て良い出来かは人によって判断が分かれるだろう。

    詳細は 「メタル・トループス1/144キット」 を参照のこと。


  • ドラゴン1/144キット

    14510: Panzer Korps 28
    Moerser Karl + Munitionsschelepper auf Panzer IV
    ドラゴンは1/144パンツァー・コープ・シリーズでカールのキットを6種類も発売しており, その中のひとつがカールと弾薬運搬車のセットとなっている。 1/144のキットとしては アトリエ・インフィニティメタル・トループス のレジン・キットに続いて3つめとなる。 レジン・キットに比べて入手も取り扱いも容易なインジェクション・キットとして期待も高かったのだが, 出来としてはメタル・トループスよりは上だがアトリエ・インフィニティよりは下, という感じがする。 全体的な印象としては, トライデントの1/87キットによく似ている。

    パーツは全11点。 他のパンツァー・コープのキットと同様に足回りのパーツ2点がPVC製, 他はプラとなっている。 モールドはかなりシャープである。 スライド金型も多用している様で,少ないパーツにディテールを豊富につけている。

    残念ながら各部の形状については明らかな間違いや疑問点も多く, 正確さでは アトリエ・インフィニティ 製品に水を空けられてしまったように思う。

    詳細は 「ドラゴン1/144キット(その2)」 を参照のこと。


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Created: May 17, 2003
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