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■ホビーボス1/72キット■


#82904
Moerser Karl-Geraet 040/041 Initial Version

#82905
Moerser Karl-Geraet 040/041 Late Version

2007年5月の静岡ホビーショーで, ホビーボスから1/72のカールのキット2種(カタログ番号82904, 82905)の発表があった。 当初どちらのキットも2007年夏の発売と予告されていたが, 結局#82904が8月末に,#82905は12月に出荷になった。

1/72のカールのキットは,1970年代に開発された ハセガワのキット が長らく唯一のものだった。 ハセガワは最近一部のパーツを追加したり改良した上でバリエーション・キットも発売したが, いかんせん古いキットだけに考証上の難点は完全には解消されておらず, ホビーボスの新製品は大いに歓迎されるところである。

ホビーボス自身(やその輸入販売元である童友社)がこれらのキットの売り文句をどう考えているのかは わからないが,雑誌に掲載する宣伝文句風に特徴を簡潔にまとめるとするなら…

  • 砲身は60cm砲と54cm砲の選択式
  • 8個の転輪を持つカール1号車,2号車の自走状態を再現(#82904)
  • 11個の転輪を持つカール3〜6号車の自走状態を再現(#82905)
  • スプリング内臓で砲身は後座可能
  • 最新の資料を用いて正確なディテールを再現

といったことになろうか。


◆製品内容◆

二つのキットは下表のようなパーツから構成され,ともにパーツ総数約190点となっている。

#82904 Initial Version #82905 Late Version
シャーシ 8転輪 11転輪
足回り A, Bランナー Gランナー
車体上部及び細部パーツ C, Dランナー
主砲,砲架関係 E, Fランナー
キャタピラ ベルト式
(初期タイプ,170mmピッチ)
ベルト式
(後期タイプ,240mmピッチ)
金属パーツ 丸棒1本,スプリング4個
デカール I, II号車用 III〜VI号車用

モールドの印象はよく,ディテールも豊富である。 全体的に トランペッターの1/35キット をスケールダウンして開発されているような印象を受ける。 スケールが違うので部品分割まで全て同じになっているというわけではないが, 各部の解釈やディテールのつけ方が同じである。 同キットは非常によくできているので,お手本としては申し分ないと言えよう。

入手したものには,バリ,押し出しピン跡が散見された。 また金型をよく磨いていないのか,一部のパーツ表面に傷や荒れがあるようである。

砲身・砲架

両キットともに60cm砲身のGeraet 040と54cm砲身のGeraet 041の選択式になっており, 砲身,装弾トレイ, 54cm砲用の閉鎖器ブロック上のカウンター・バランス(?)がきちんと用意されている。 装弾トレイはスライド金型を用いてうまく再現されている。

1箇所54cm砲身用のパーツで省略されしまっている部品がある。 右写真にあるとおり,砲身カラー前面に円盤状のパーツがつけられているのが本当。 写真では0.3mm厚のプラ板を外径12.5mm,内径9.5mmに切り出してある。 なおこのパーツは60cm砲身の場合には存在しない。


60cm砲身用パーツと54cm砲身用パーツ

54cm砲身用の追加パーツ
砲架表面の多数のリベットやディテールもかなり再現されており, 精密感がある。 型抜きの関係で省略されている部分については気になるなら追加したいが, このスケールなら無視してもよいかもしれない。

購入したものには砲架表面や閉鎖器ブロックにヒケがあった。 砲架のヒケは奥まった部分でもあり周囲にディテールのモールドもあるため, 消すのは困難で残念。


砲架
ディテール・アップのポイントとしては, 駐退復座装置ハウジングの鋳造部分のテクスチャがあげられる。 右写真のピンク色部分にをラッカー・パテなどでつけてやりたい。 実物では前面の一部と後面は切削されて平滑になっているので, そこを荒らしてはいけない。

また駐退復座装置ハウジング前面, 砲身の真上にある眉毛(?)のような突起が省略されている。 これはカールのセクシー・ポイントの一つなので是非つけたい

なぜか砲弾は付属していない。 今後どこかのサード・パーティーからレジンかアルミ製で発売されることを期待したい。

また閉鎖器は独立したパーツになっていないので, 閉鎖器を開けて砲弾を装填中の状態を再現することはできない。



鋳造テクスチャがある部分

足回り

#82904 Initial Version #82905 Late Version

#82904のシャーシと足回りは8転輪となっており, カールのI号車とII号車に相当する。 #82905の方は11転輪仕様で, こちらはIII号車からVI号車にあたる。 両キットともに サスペンション・アームは下に下げられた状態でシャーシにモールドされているため, カールの「自走状態」を再現していることになり, このままでは「射撃状態」や「貨車輸送状態」は作ることはできない。 1/72としては高価な部類に入るので, できれば足回りは「自走状態」と「射撃状態」の選択が可能であって欲しかった。 (もしかすると,「お手本にした」と思われる トランペッターの1/35キット では「自走状態」の形態のことを誤って"Firing Mode"と記載しているので, ホビーボスの設計者は"Firing Mode"を再現したつもりなのかもしれない。)

キャタピラはポリ製のベルト式で,瞬間接着剤で接着可能(スチレン用の接着剤は不可)。 カールでは8転輪タイプと11転輪タイプで使用するキャタピラが異なるが, キットではそのあたりもきちんと再現されている (ハセガワのキットではどっちつかずの形状になっていた)。 幅,ピッチなど寸法は問題ない。 ただし表面のモールドは浅めで,もう少しメリハリが欲しかった。 写真にあるとおり, 長さはほぼぴったりで,特にきつすぎもゆるすぎもしない。 カールの場合, 自走状態ではキャタピラはあまりたるんでいないようなのでこれでちょうどよいだろう。

細かいことを指摘すると, #82904 Initial Versionの上部転輪の直径が少し大きめのようである。 この転輪の直径は実車では推定280mm程度,1/72で3.8mmぐらいなのだが, キットの転輪直径は4.7mm程ある。 お手本にした(?)トランペッター1/35キットでもこの転輪は大きすぎたので, それをそのまま真似してしまったのだろうか。 あまり目立たない部分なので無視しても構わないだろう。

なお#82905 Late Versionのキットの一部に, 誤って#82904 Initial Versionのキャタピラが入れられてしまっている場合があるようである。 キャタピラのランナーに「82905」とか「Late Karl」の刻印があるのが正しく, 「82904」とか「Early Karl」の刻印があるなら初期型キット用のパーツである。 もし違っていた場合には, 輸入元である 童友社のサービス係に連絡すれば対応してもらえる。

#82904 Initial Versionのキャタピラ・ランナー #82905 Late Versionのキャタピラ・ランナー

車体

8箇所ある,専用輸送貨車との接続用ラグはスライド金型を使ってモールドされており, ボルトのモールドも念入りで好感が持てる。 ただなぜか貨車の吊り下げアームとの接続シャフト自体が省略されてしまっているので追加したい。

車体後面の工具などOVM類は車体と一体成型されている。


車体後面
操縦席内にはレバー類もパーツ化されている。 計器パネルは,型抜きの関係だろうが,モールドが少し曖昧である。 操縦席用のカバーもパーツ化されている(D21)。 このカバーは,射撃時や貨車輸送時に操縦席に蓋をするためのものであるから, 本キットのような自走状態では本来不要であるので注意。

操縦席横の円形グリル(D27)は,ルーバーの表現が今一つ。 ここを含めてディテール・アップや補完には, ハセガワ1/72キット用のエデュアルド製エッチング がある程度使えるかもしれない。

左右の作業デッキは展開された状態で固定となっている。 このため,将来にわたっても貨車輸送状態のキットが発売される可能性は低いのではないだろうか。 デッキ・パーツの裏,フェンダーの裏にはかなりの数の押し出しピン跡がある。 一応完成後にはほとんど見えない部分ではあるが, 完全に隠れてしまうわけではないので注意。



操縦席付近と車体前面

その他

#82904のデカールは"Adam"と"Eva"の2種のニックネームと車体番号で,色は白である。 ただし8転輪シャーシのI, II号車の場合, 本体に描かれたマーキングが直接わかる戦時中の写真,資料などは存在しない。 ただし,"Adam"に関しては, クビンカに残る車両の塗装を剥がした際に, ある時期にこの字体で書かれていたことがあったことが確認されている (資料[38])。

#82905のデカールは,III, IV, V, VI号車の車体番号と, "Thor", "Loki", "Ziu"のニックネームが白と黒の2色で用意されている。 "Odin"の名称は用意されていないが, 実車写真で"Odin"と書かれた車両のものは今のところ確認できていないので, 省略は妥当であると思う。



#82904 Initial Version デカール #82905 Late Version デカール

組立説明書はわりとゆったりしたレイアウトで見やすい。 これとは別に,5面図による塗装例とデカールの指示を描いたカラー印刷の別紙がある。 ただしどちらのキットの塗装例もダーク・グレイの単色となっており, カラー印刷の意味があまりないのではと思う。 特に11転輪の#82905の方なら,Thor, Loki, Ziuの3色迷彩の塗装例を示して欲しかった。

なお,過去の他社キットでも例があるのだが, 箱絵に描かれたカールの形態ととキットの内容が一致していない。 どちらのキットの足回りも, 上述のように「自走状態」で固定になっており, サスペンションが効いて車体が地面から持ち上げられた形態で, これ以外の形態は製作することはできない。 一方の箱絵の方はサスペンションが解除され車体を地面に接地した「射撃状態」である。 カールについて一定の知識があれば, キットは自走状態としては正確であることを納得できるが, そうでないと「作ってみたけれど箱絵のような形にはならかった」と驚くことになりそうである。









◆ディテール・アップの例◆

■砲身
  1. 鋳造テクスチャをパテで再現。
  2. 砲身カラー上の「眉毛」をプラ材で再現。
  3. 砲身カラー表面の配線(配管?)をエナメル線で作り変え。 キットのモールドは少しおかしい。 この配線は上側に2本,下側に3本が這わされている。
  4. 直方体状のストッパー(?)を4個追加。 これを再現しているキットはこれまで見たことがない。


■砲架
  1. 省略されているリベットを一部追加。
  2. 一体成型されているハンドルの握り部分をプラ丸棒で作り変え。
  3. 装弾トレイの手すりが板状のモールドになっているのを作り変え。
  4. エデュアルドのエッチング(22059)を利用。



■車体
  1. 板状にモールドされた手すりを真鍮線で作り変え。
  2. 一体成型されているハンドルの握り部分をプラ丸棒で作り変え。
  3. 湾曲したはしご頂部を作り変え。
  4. エデュアルドのエッチング(22059) (グリルおよびノテック・ライトのガード)を利用。
  5. 貨車搭載用の接続シャフトを追加。1.1mm丸棒。



◆ハセガワ1/72との比較◆

真ん中がホビーボス#82904 "Moerser Karl-Geraet 040/041 Initial Version"。 塗装手順の関係で一部塗装済みだったり, パーツが未装着だったり, はめてあるだけの部分もある。 右は ハセガワの改訂版キット(MT56)の素組み。 サフを吹いてある。 (ただし本来このキットは11転輪タイプで54cm砲身なのであるが, 8転輪シャーシと60cm砲身のパーツも含まれているので, それを利用してホビーボスと同じタイプに組んである。) 左は ハセガワの旧キットにできる限り手を入れたもの

ホビーボスとハセガワの寸法的な差異はほとんどない。 ハセガワのキットのほうが,わずかに背が高い(車体高が高いようです)のと, 砲身の駐退複座装置のハウジングの幅が広めなために, よりマッチョな印象がある。 細部やディテールについては,30年選手であるハセガワのキットには辛い点が多いのは仕方ない。




◆組立説明書の補足◆

以下の補足事項は,特に指定がない限り#82904, #82905で共通である。

  1. ステップ1
    #82904:下部転輪パーツB2の軸穴は直径1.6mm程度に広げておいたほうが, あとでサスペンション・パーツA1, A2を取り付ける際にはまりやすい。

  2. ステップ3
    D10, D11, F30は少し擦り合わせをしたほうがよい。

  3. ステップ4
    排気管パーツの組み合わせにミスプリントがある。
    :「D25とD29」,「D12とD14」
    :「D25とD14」,「D12とD29」

    車体上部(C2)に接着した際に隙間が生じないように, 車体上部側面(C4, C5)の裏の押し出しピン跡のバリはよく消しておく。

  4. ステップ5
    特定の時期の特定の車両を再現したければ, 排気管の延長部分(D6, D26)を取り付けるかどうか検討すること。

    操縦席カバー(D21)は, キットを改造して射撃状態を製作するのでない限り取り付けない。

  5. ステップ7
    車体前面パーツ(F18)および車体後面パーツ(F23)と車体の間には少し隙間があくようなので, 擦り合わせを十分してプラ板の端材やパテで埋める。

  6. ステップ8
    駐退複座装置のスプリングを組み込んだギミックをそのまま使うなら, ロッド(F3)がハウジング内部に落ち込んでしまわないように何か工夫が必要 (ハセガワのキットはここはうまく処理している)。

    ホビーボスでのパーツ構成

    ハセガワのキット(MT56)でのパーツ構成

  7. ステップ9
    54cm砲身パーツ(E1, E10)と砲身が通るF21, F29は嵌め合いが少々きついので, F21, F29側の穴を少し広げるか,砲身を削り込んで調整する。 60cm砲身パーツに関してはこのような問題はない。

    砲尾ブロック(F31)にはヒケが結構ある。

  8. ステップ10
    砲架の箱組みは, パーツをよくすりあわせて隙間を生じないように。 またF9は照準器なので,キットのような自走状態では本来取り外されていたと思われる。

  9. ステップ11
    装弾トレイは,60センチ砲弾用と54センチ砲弾用で使うパーツが異なる。 よく似ているので注意。 トレイ上部パーツ(E5, E9)は取り付け位置があいまいだが, 実車ではこの部分は下部パーツ(E17, E18)に対してスライドするので, (落ちない位置になっていさいすれば)あまり気にする必要はない。

  10. ステップ12
    砲耳パーツ(F25, F26)は座りが悪いので十分すり合わせをする。


考証的にもディテールの上でも良く出来ているキットである。 ハセガワのキットに代わる,このスケールのカールの決定版キットと言ってよいであろう。 ホビーボス(またはトランペッター)には, 今後是非カール用のIV号弾薬運搬車も同スケールでキット化して欲しいところである。


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Created: Friday August 31, 2007
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