■ハセガワ1/72キット■Part 2
本製品は,弾薬運搬車とのセットである従来の 『1/72ミニボックスシリーズNo.33 ドイツ「カール」&4号特殊弾薬運搬車 』 をベースとし, 54cm砲身を搭載したGeraet 041をモデル化したバリエーション・キットである。 新規パーツは砲身と足回りであるが, 従来のキットのパーツもそのまますべて(不要パーツとして)含まれている。 このため本キットは(組立説明書には記述はないものの), 実質上砲身は60cmと54cmの選択式,足回りは8転輪シャーシと11転輪シャーシの選択式, になっていると言ってよく,極めて「お得な」キットになっている。 さらに,従来のキットで考証不足だった部分について, 一部は新規ランナーに改良パーツが含まれている。 したがって, 「バリエーション」というよりは「リニューアル」キットであるとも考えられる。
◆製品内容◆■砲身・砲架 今回のキットでの最大の変更点は54cm砲身の追加である。 かなり控えめなモールドながら砲口付近にはライフリングも再現されている。 また54cm砲弾用の装填トレイも新規部品である。 前作のキットでは,実車と異なって砲架が車体に埋め込まれるようにして固定されていたが, 今回は正しく車体に砲架が収まる「風呂桶」がある構造に改修され, 砲架のパーツもそれらしくなってきた。 (しかし,前作のパーツをある程度活かそうとしたためか,完全に正確とは言えない。) 以前のキットと同様に砲架は後座位置に固定で,走行状態や貨車に搭載した状態になっている。 サスペンションは走行状態が再現されているからこれで正しい。 ただし,もし改造して射撃状態を作りたいなら砲架については大手術になることを覚悟する必要がある。 また実車写真を見ると, 54cm砲の砲尾ブロックの上にはカウンター・バランスのようなものが載っているように見える (「カール各車両の相違点」参照)。 今回のキットではこれは省略されているので気になるなら追加工作をする。 ただし細部がどういう形状なのかはよくわからないので適当にでっち上げるしかない。 トランペッターの1/35キットにはこのパーツが含まれているので, 参考にしてもよいだろう。 キットには不要パーツとして60cm砲身も以前のキットのまま含まれているので, 60cm砲搭載のGeraet 040を作成することも可能である。 ただし今回新規に追加になった砲弾装填トレイのパーツは54cm砲弾用であり, 以前のキットの砲弾装填トレイのパーツは形状に問題があるので, 60cm砲弾用の正確なトレイが欲しいなら自作する必要がある。
■車体 上述のように車体中央部の「風呂桶」が(ある程度正確に)再現されたり, 車体後部上面(カールは砲口が向いている方が「後ろ」)にモールドが追加されるなど, 改修されて随分と良くなった。 また排気管を車体後部まで伸ばすパーツも追加されている。 しかし車体左右の作業デッキが車体本体と同じ高さにあり, エンジン・ルームの丸いルーバーが車体横にはみ出していない, という以前からの欠点はそのままであるのは残念。
■足回り 前作のキットとは異なり,III〜VI号車の11転輪タイプの足回りとなっている。 転輪配置が車体左右で非対称になっている様子も正しく再現されている。 転輪表面には細かくディテールがモールドされている。 放射状にある溶接跡は実車でも目立たない程度のものなので, スケールを考えれば耐水ペーパーで少し削っておとなしくしてやってもいいだろう。 サスペンションの位置は走行状態で固定されてモールドされているので, このままではサスペンションを解除した射撃状態や貨車搭載状態に組むことは出来ない (ただし多少の手間で改造は可能と思われる)。 履帯はポリ製で前作の物がそのまま入っている。 本来 カールの履帯 は8転輪タイプと11転輪タイプの足回りでピッチが異なる全く別物なので, これはある意味では誤りなのだが, もともとこのパーツは8転輪タイプ用というよりは11転輪タイプ用に近い寸法だったので, かえって好都合である。 前作のキットでは起動輪と履帯がうまく噛み合わない上に, 車体側の半分が車体側面に一体成型されていたために, 原理的にも履帯には嵌らないという問題があった。 今回はそのようなことはない。 ■弾薬運搬車 基本的に前作のままであるが, 転輪類のみ前作の物より出来が良い, 同社のIV号駆逐戦車やオストヴィント等で使われているパーツが入れられている。 履帯は前作のポリ製のままである。 これで前作よりは足回りの雰囲気はぐっと良くなったが, シャーシ表面のモールドは古いままだから, さらに上を求めるならドラゴンやレベルのIV号系列のキットから, シャーシや転輪も含めて車体下部を丸ごと流用するとよいかもしれない。 クレーン,弾薬庫など車体上部構造物のパーツは以前のままなので, 下記の問題点は修正されていない。
砲弾は54cm砲弾が新規に用意された。 弾薬庫に積まれた2個とクレーンのグリッパにつかまれた物が1個含まれている。 ■デカール 1944年夏頃のThorとLoki用のロゴと車両番号のデカールが含まれている。 弾薬運搬車用のものはない。 戦時中の一連の写真を見る限り, この時期の弾薬運搬車には車体上部前面に大きく番号が書かれていたようなので, 欲を言えばこれもデカール化してくれればよかったと思う。 ■その他 エデュアルドが出している,ハセガワの 前作のキット用のエッチング (22059 Karl gun on track,22065 PZ.IV Munitionwagen)は, 本キットにも利用可能であると思われる。 旧キットの組立説明書では, IV号弾薬運搬車のクレーン・アームの取り付け指示が実車と反対向きになってしまっていたが, 本キットでは正しい向きに修正されている。 旧作パーツについては,古いだけに金型もくたびれてきているのか, バリ,ヒケ,表面の傷が目立つので丁寧に成型してやろう。 本キットの足回りや砲架は,カールが走行時の状態を再現しているわけだが, 箱絵はこの状態で砲身に仰角をかけ,いましも射撃を行おうとしているかのように描かれている。 射撃しようとしている姿のほうが絵としてインパクトがあるのは理解できるが, 実車ではこの状態で射撃はできなかったのでちょっと誤解を招くパッケージではある。 旧作のキット(No.33ドイツ「カール」&4号特殊弾薬運搬車 )でも, キットのパーツは走行状態を再現しているのに箱絵はサスペンションを解除した (したがってキットの内容とは形態の違う状態) 射撃姿勢を描いていたこともあり, ハセガワはそのあたりの正確さについては無頓着なのか, 誤りであることは承知していながら敢て迫力のある絵を使いたかったのか, どちらなのか訝しく思う。 新規追加パーツとデカールは下の写真のとおり。 旧キットと同じパーツについては示していない。
元のキットが30年前のものだけに, 発売予告が発表されたときには,この際完全新規開発か?とも期待したが, 蓋を開けてみれば過去の資産を有効活用しつつ新規開発のパーツを加えた堅実な内容の製品だった。 このスケールでは唯一のカールのキットであるので, 54cm砲身と11転輪シャーシのパーツが入手できるようになったことを素直に喜びたい。 さて本キットの走行状態のカールに引き続き, 輸送貨車付きのカールについてもリニューアルが行われるかどうか 興味が持たれたが, 結局 11転輪シャーシ,60cm砲身で貨車付きのキット が2006年に発売になった。 こちらのキットでも従来製品のパーツは全て含まれており, 実質上のコンバーチブル・キットになっているため, これで従来の2つのキットは完全に絶版ということになるのかもしれない。
Home
Created: Saturday November 12, 2005 Last Update: |