■トランペッター1/35 IV号弾薬運搬車■


00362 German Panzerkampfwagen IV D/E Fahrgestell

00363 German Panzerkampfwagen IV F Fahrgestell

待望のキットが発売された。 各社からカールの1/35キットがアナウンスされたときには, どのメーカーが カール用弾薬運搬車を発売するのか, カール本体と同じで複数のメーカーによる競作になるのか, などいろいろと憶測を呼んだが, 結局トランペッターが名乗りをあげることになった。 トランペッターは,これまでIV号戦車もその派生型も何一つ発売していないのに, 究極の(?) IV号戦車のキットを発売しているドラゴンやトライスターに先んじることになったところが面白い。 あるいはこれに刺激されて他社もこれから弾薬運搬車のキットをぶつけてくることがあるだろうか。

本車の場合不明点も多いため, いかにそれらしくまとめるかに興味があったが, トランペッターは全体にそつなく設計を行ったように思える。 車体上部,クレーン,弾薬庫などの本車の特徴的な部分では, 実車写真で判明しているところについてはかなりよく出来ているようだし, 不明部分もそれらしく作られていると思う。

とにかくよく商品化してくれました,と感謝したい。


◆製品内容◆

トランペッターは本キットを「エキスパート・シリーズ」と位置づけており (しかしその割には箱にはそのような記載はない), プラ・パーツ総数約670(連結式キャタピラのパーツ約250を含む), エッチング,アルミ製砲弾2個, PVCの透明シート,フェンダー用金属スプリング,銅線2本, キャタピラはベルト式と連結式の選択, など,豪華な内容になっている。 トランペッターのカール本体 やK5(E)列車砲,BR52蒸気機関車のキットでは, かなり細かい部品分割が行われていたため, 本キットもそうした多パーツ路線かと予想したが, 恐れていたほどには過剰なパーツ分割にはなっていないようである。

キット#362(写真左)はIV号戦車D型シャーシ, キット#363(写真右)はIV号戦車F型シャーシをベースとした弾薬運搬車となっており, 内容の違いは基本的にベースとなったシャーシ部分のみで, 車体上部など弾薬運搬車固有の部分は同一となっている。

A, BランナーがIV号戦車のサスペンションと上部及び下部転輪,シャーシ関連パーツ, E, F, Hが弾薬運搬車固有のパーツ, Gは砲弾,N, PランナーはOVM類となっている。 これ以外に#362のキットには, 起動輪,誘導輪,下部転輪ハブキャップなど IV号D型固有のパーツをまとめたDランナーおよび38cm履帯のJランナーがある。 #363の方は, CランナーにIV号F型固有のパーツ,Kに40cm履帯が入っている。

全体にモールドは良好である。 一部にバリがあるにはあるがどれもたいしたものではない。 ジャッキ台などには木目のテクスチャもあり, リベットやボルト類も細かくモールドされている。 ただし,IV号戦車系列のキットには, 1970年代のイタレリ,タミヤのキット以来の長い苦悩(?)の歴史があり, その最新製品であるトライスターやドラゴンのキットと比べた場合には少し物足りなさが残る。 気になるなら資料や他社キットを参考にして追加工作をするか, 好みでパーツを流用すればよいだろう。

パーツの合いがあまり良くない所があるのは残念。 ダボやガイドはあるのだが嵌め合いがきつ過ぎたり, きちんと嵌まらない場合がある。 仮組みと擦り合わせを怠らなければ問題ないが, 出来の良いタミヤやドラゴンの製品のようにはいかないと思っておいたほうがよい。

車体上部

本車は,クルップで製造されたIV号戦車のシャーシ上に, ラインメタル社で設計・製造された車体上部を載せたものである。 このため,車体上部は他のIV号戦車系列の車両とは一切異なる形状をしている。 本キットでは, 過去のカール用弾薬運搬車のキットではことごとく無視されていた, 上面の操縦手用ハッチのうしろの2個目のハッチも再現しており好感が持てる。

なおこれらのハッチのパーツ(B30, B31)は, IV号戦車の操縦手・無線手ハッチに準拠した形状になっており, 裏面にはロック機構もモールドされている。 しかし実車写真で見る限り実物はIV号戦車のハッチとは別物で, ハッチ裏面にこのような機構はないように見える。 確実なことはわからないが,気になるなら修正したいところである。

弾薬庫

弾薬庫表面のリベットなどのディテールや, 上面の扉のリブ, 扉を開いたときのストッパーなども再現しており, よく考証されていると思う。

弾薬庫の内部については詳細がわかる資料や写真がないため, これまでの弾薬運搬車のキットでも想像に基づいて作られていたはずである。 本キットでは弾薬庫床面(車体上部天面)を下左の写真のようにパーツ化にしており, 過去のCMKADV/Azimutのキットと同じように, エンジン・ルーム用のルーバーがあるという解釈になっている。

ちょっと気になったのは, 弾薬庫後面のパーツ(E15)にモールドされた乗員席の背もたれの裏側が凹になっていることで, これは多分成型上の都合でつけられただけと思われるため埋めてやりたい(写真下右)。 またこのパーツを含めて弾薬庫の壁面やハッチのパーツの裏側にはかなり目立つ押し出しピン跡がある。

IV号戦車F型ベースの弾薬運搬車の場合, 弾薬庫後面にはリブが1本追加されているが, キット#363のパーツ(E15)はD型キット#362と同じものでリブが足りないので, 追加してやりたい(右写真の赤線部)。

クレーン

本キットの最大の見せ場と言えるだろう。 パーツ数も多く,パーツ表面にもディテールが細かくモールドされている。

特にクレーンのフック部分には「DEMAG」の刻印が再現され, フックの外形や断面形状もそれらしくなっており説得力のあるパーツになっている。 過去の多くのキットではフック部分が単なる丸棒を円形に丸めただけだったりするなど, 「おもちゃっぽさ」が見受けられた部分なので, 本キットはよく出来ていると思う。

ここまできたなら, 金型の都合上で省略されていると思われる一部のリベットやボルトを追加して, さらにディテール・アップしてやりたくなる。

砲弾のグリッパは,プラ・パーツとエッチングの組み合わせか, エッチングのみで組むかの選択式になっている。 実車では砲弾の種類毎に寸法の異なるグリッパが用意されていた。 キットのグリッパは60cm schwere Betongranate(重ベトン弾)用となっているようだ。 後述のように本キットには2種類の砲弾が入っているので, グリッパも2種類用意して欲しかったところではある。

なお組立説明書に示されているワイヤの張り方は, 本サイトでの考察 とは異なっている。

シャーシ・足回り

両キットで共通の車体下部パーツは一体成型で, これに可動式のサスペンション・ボギーを取り付けて作るようになっている。 ドラゴンやトライスターのキットと比べるとあっさりとした印象である。 どうも先行他社のキットを研究・参考にしたと思われる部分も多々あるが, 「いいとこ取り」とは行かなかったようだ。 また,D型シャーシとF型シャーシでは細部に差異があるが, 多くのパーツを共通化したためにどっちつかずの形状になってしまっている部分もある (改善方法については後述)。

キット#362の発表当初, このキットはシャーシと足回りはIV号戦車D型かE型から選択できると言われており, また製品名称からもそのような印象を受けるが, 実際にはD型シャーシ用のパーツしか含まれていない。 コスト削減のためにE型用パーツは外したのだろうか。


下の写真は#362に含まれるD型用のパーツである。


こちらは#363のF型用のパーツ群。 サスペンション部分は#362と共通である。 下部転輪はハブ・キャップのみがIV号E型以降で使われたタイプに更新され, 転輪本体は#362のD型用パーツと共通になっている。 厳密なことを言うと,IV号D型の下部転輪はF型のものとはわずかに異なり, 幅が狭くハブ・キャップ部分がより飛び出している。 実際#363のパーツを組んでみると, ハブ・キャップ部分の出具合から, F型の転輪というよりも, D型と幅が同じでハブ・キャップが新しくなったE型用の転輪に印象が近いように見える。 もし気にするならタミヤもしくはグンゼのIV号戦車のキットから転輪本体のみを持ってくる, という手もある。 モデルカステンやトライスターがIV号戦車用の転輪のみのセットを販売しているので, それでも良いだろう。

上段はタミヤIV号戦車H初期型(MM209)の転輪類

どちらのキットでも, キャタピラは贅沢にもベルト式とプラ・パーツの連結式の2種類が用意されている。 どちらもセンター・ガイドの穴が開いているところが素晴らしい。 連結式のパーツは表面のモールドは少し浅め,嵌め合いはまずまずである。 ベルト式の方は通常のプラ用接着剤で接着可能とのことである。 モールドやディテールはプラ・パーツと同等であるが, 私が入手したものにはバリがかなりあり,ちょっと使いにくい。 キット#362に含まれる38cm幅のIII/IV号戦車用のキャタピラでベルト式なのは, これが最初の製品になるのではないかと思う。

一部の事前情報では,インテリア・パーツがあるとのことだったが, 発売されたキットでは省かれている。

その他シャーシ回りのパーツ形状を見ていると, ちょっと細かい部分でIV号戦車D型,F型のシャーシとしては考証的に怪しい箇所もあるようだ。 致命的な問題ではないが, 後掲の「組立説明書の補足」で指摘しておく。

OVMパーツ,アクセサリ

これらのキットには, 本体パーツのランナー(B)と右の写真のような専用ランナー(N, P2)に, 2セットの工具類が用意されていて, どちらかを選択するように指示がある。 専用ランナーのパーツの方は, 工具を止めるクランプのハンドルがモールドされていたりディテールで勝っているので, Bランナーのパーツをわざわざ使う理由はなく, どうしてこうなっているのか少し不思議ではある。

ただ専用ランナーのパーツでも, 最近の他社のパーツを見慣れているとちょっと物足りない出来なので, 気になるなら他キットやレジン・パーツなどで置き換えてやった方がよい。 特にノテック・ライトやホーンのモールドがもっさりしているのと, 後部の間隔表示灯が気になった。

OVMや尾灯類の配置については, 本サイトでの考察 (「IV号弾薬運搬車の形態上の特徴」参照) とキットでは若干の相違がある。 具体的には後掲の「組立説明書の補足」で指摘した。 なお本車は製造後かなり長期間にわたって使われたと思われ, 時期によって異同があった可能性はあるので, どちらが正しいのかについての判断は保留することにする。

このキットには大量のエッチング・パーツが含まれているものの, なぜかOVMのクランプ類のエッチングは一切含まれていない。 トランペッターは カール本体のキット でもOVMクランプのエッチングは入れておらず, 何かそうした方針なのかもしれない。



砲弾は60cm schwere Betongranateと60cm leichte Betongranateが プラパーツで各4個ずつ含まれているのに加えて, アルミ削り出しの砲弾が各1個付属する。 なおアルミ製砲弾はこのキットと同時に発売になった カールのキット第3弾 に付属の物と同一である。

トランペッターの砲弾パーツに関しては こちらのページも参照のこと。

エッチング・パーツ他

エッチング・パーツは#362では6枚,#363では5枚用意されている (右写真で赤枠で囲まれた誘導輪用のパーツがない分#363の方が1枚少ない)。 下手な別売りエッチング・セットよりもパーツが多いように感じるが, 実は多くはオプション扱いで, 同じパーツがプラとエッチングの両方で用意されていて, 製作者の判断でどちらを使うかを選べるようになっている。 右の写真で青くシェードがかかった部分は同等のプラ・パーツが存在するもので, フェンダーの前後端の可動部,砲弾グリッパ, 車体左右のルーバーなどがそうである。 他はエッチングのみで用意されているパーツで, クレーンのディテール,車体右側の折りたたみ式デッキ, 砲弾のディテールなどである。

エッチング以外のマテリアルとしては, クレーンのワイヤ用のナイロン糸, フェンダー可動部用のスプリング, 0.3mmと0.5mm径の銅線が含まれている。 銅線はエッチング・パーツと組み合わせて使うのだが, 組立説明書ではこの他に1.0mm径の金属線を使って自作せよ, という部分がある。 だったらなぜ1.0mmの銅線は入れていないのだろうか??

フェンダーのスプリングが標準でキットに含まれているのは, このキットが初めてということになると思う。 右写真でスプリングと一緒に袋に入っている金属ピンは, スプリングをフェンダーに取り付けるためのもの。



その他

本車両の名称としては製品名が適切でない。 たとえば#362の "German Panzerkampfwagen IV D/E Fahrgestell" を直訳すると「ドイツ4号戦車D/Eシャーシ」というわけのわからないことになってしまう。 当サイトの「IV号弾薬運搬車」のページに記載したように, 本車が "Munitionsschlepper auf Panzer IV(IV号弾薬運搬車)", "Munitionsschlepper fuer Karlgerae(カール用弾薬運搬車)" などの名称で呼ばれていたことは各種資料を見れば明らかなので, もう少し配慮があってもよかったのではなかろうか。

どちらのキットにもデカールは含まれていない。 当時の写真からは弾薬運搬車になんらかの部隊章などがペイントされている場合があることがわかるが, IV号戦車D型ベースの車両の写真では一切マーキングが見られないので, その意味では適切な判断と言えるものの, F型ベースである#363の方にはもう少し配慮があってもよかったかもしれない。

組立説明書は20ページあり,図版も大きくて見やすい。 ただし,エッチング・パーツとプラ・パーツの選択部分は少しわかりにくいので注意が必要だと思う。 塗装例を記載したカラー印刷1枚が別紙として用意されている。


◆組立説明書の補足◆

組立説明書で不明確な部分,気になる部分について挙げておく。

  1. ステップ2, p.3
    車体裏面中央近くに四角い凹み(写真右,赤矢印)があるが, これは本来IV号駆逐戦車にしかない特徴だそうである。 ただしひっくり返さない限り見えないので無視してもよいだろう。 なお他社のキットの中にも間違ってこのモールドがあるものもある。
    ファイナル・ドライブ・ギア・ハウジング(B4, B6)の前面にボルト(B38) を10個接着するよう指示があるが,これでは数が多すぎる(写真下)。 D型シャーシの場合6個が正解。 F型シャーシではここに装甲板が1枚追加になっている。 ハウジング自体の形状も今ひとつであるが, ボルトや追加装甲板部分以外は組み立ててしまえばほとんど見えなくなる。
    D型シャーシ(キット#362)の修正
    お手軽に修正するなら, まずファイナル・ドライブ・ギア・ハウジング前面のボルトの数を半分の5個に間引き, 車体前面部内側にボルト(片側4個)と小さなリブ(片側2箇所) を追加するとそれらしくなる。

    F型シャーシ(キット#363)の修正
    増加装甲をプラ板を貼り付けて表現し,円錐ボルトをつける。 ボルトの間隔は不等であることに注意。 シャーシ側は側面装甲板が前方にわずかに飛び出ているようにする。 右写真は雰囲気重視で気軽に修正したので寸法的には怪しい。 特に側面装甲板は前に出すぎている。 これはファイナル・ドライブ・ギア・ハウジングとの兼ね合いでこうなってしまったのだが, もう少しなんとかすべきだったか…

  2. ステップ3, p.4
    車体後面パネル上の車体後面下部冷却水交換用蓋(赤矢印)は D,F型には存在しないものなので削り落とす。


    冷却水排水口(B16)は,地面に対して水平になるように取り付ける。 注意しないと車体後面に対して垂直になり,これだと地面に対して斜めになってしまう。

    キット#362のマフラー(D8, D9)の固定用のベルトのうち, 中央の2本は本車にはないので削り落とす (通常のIV号戦車D型では,煙幕発生装置を固定するためにこのベルトがある)。

    キット#363のマフラーは残念ながら本車両のものとしては形状に誤りがある。 キットは通常のIV号戦車F型のマフラーになってしまっている。 弾薬運搬車の場合には,排気口は下方に出た後,横に曲げられて延長されている。 延長部分が曲管なのか直管を連結してあるのかは定かではない。 右の写真では曲管であったと仮定して製作してみた。

    また補助エンジン・マフラー(B24)にはなぜか肝心の排気口がない。 本車の場合排気口は下方から横に延ばされているらしいが, 正確にどのような形状なのかは不明であるので,それらしく工作するしかない。



  3. ステップ5, p.5
    車体後部左右のラグ(B12, B13)が,車体後面にモールドされた基部と合わず, 大きな隙間ができる。 これは設計ミスというか,フェンダーがらみで設計がまずかったせいと考えられる。 ステップ11のフェンダーの組み立てに関するコメントを参照のこと。

  4. ステップ7, p.6
    連結式のパーツを使う場合,リンク数は102個と指示されているが, もう少し少なくてもよいようだ。 写真は#362のキットで,リンク100個で組んでみた状態。

  5. ステップ9, p.7
    車体上部の操縦手用クラッペ(というか窓)にはPVCの透明シートを貼り付けるようになっているが, なぜかその横の丸い穴にも透明シート(PVC-B)を貼るように指示がある。 この穴はブレーキ用排気ファンの穴であって, のぞき穴などではないので当然透明シートは不要。

    操縦手ハッチとその後ろのハッチのパーツ(B30, B31) 裏面のロック機構は実物にはない可能性が高いので削り落とす。 ただし確実なことはわからないので,そのままにしてもよいかもしれない。 もし削り落とす場合には表面の三角形の鍵穴板とその反対側の2個のリベットも除去するのを忘れずに。 ハッチ中央のハンドル(F22)は実車にもあるので残す。 理屈を考えればこのハンドルの裏側にはラッチ機構があると思われるのだが…

  6. ステップ11, p.8
    このステップは不明確でわかりにくいのだが, 要はフェンダーはプラ・パーツ(E5, E19)をそのまま使うか, 前後端の可動フラップ部を切り離してエッチング・パーツで置き換えろ, ということである。

    プラ・パーツでは,フェンダー後部フラップ側面の切り欠きが省略されている (写真右の斜線部)。 型抜きの関係でこうなってしまったようだが, これが実はステップ5のところで指摘した,ラグ基部のおかしな形状の原因となったようだ。 つまり切り欠きのないフェンダー・パーツが付けられるように, ラグ本体と基部のあいだに隙間を作らざるを得なかっと考えられる。 エッチング・パーツでは正しくこの切り欠きが再現されている。 したがってラグ基部を修正する場合には,プラ・パーツに切り欠きをつけるか, エッチング・パーツを使うようにする。


    なお後部フェンダー・フラップのエッチングの組み立てで, 表面板(PE-A22)を枠パーツ(PE-A8, PE-A9) の裏側(下側)から取り付けるようなイラストになっているが, これは逆で,表面板は枠の表側(上)からつけるのが正しい。

    金属製のスプリングは,金属ピンを使って取り付けるが, フェンダー側の取り付け位置が曖昧なので実車写真(IV号戦車であればどれでも同じはず) を見ながら適宜判断する。 なおキットのスプリングはすべて同じ長さになっている。 後部フラップにはちょうど良いが,前部フラップには少し長めのように感じる。

    スプリングを止めるピンは,前部で2個,後部で1個である。 後部のフラップ側はピンではなくて,エッチング・パーツに設けられた穴に引っ掛ける。 実車の様子は こちら を参照(Tanx Heavenより)。

  7. ステップ12, p.9
    左フェンダー上にC型シャックル(B10, B11又はN1, N2)をつける指示があるが, これは誤り。 自作するか他キットから流用したS型シャックルを載せる。

    ワイヤ・カッター(B8又はP19)の位置には, ワイヤ・カッターではなくレンチが載せられているように見える戦時写真が多い。 キットが間違いとは断定しないが,各自で判断されたい。 なおレンチのパーツはキットには含まれていない。

    左フェンダー後部に車間表示灯(B35)をつけるように指示がある。 IV号F型ベースの弾薬運搬車(#363)ではこれでよいが, D型ベースのもの(#362)の写真では確認できない。 ただし整備時に改修されてここに取り付けられた可能性はある。 本車両のOVMや尾灯類の配置については 「IV号弾薬運搬車の形態上の特徴」 をご参照願いたい。

    キット#362で, 補助エンジン・マフラーが車体に引き込まれている穴を保護するカバー(PE-A10) の取り付け位置が曖昧でガイドが一切ない。 この部分は通常のD型と変更がないと思われる部分なので, D型の実車写真を見てあたりをつければよいが, そうするとマフラーのパーツの配管部が少し長すぎるように思われる。 1〜2mm程度切り詰めると良さそうだ。

  8. ステップ13, p.10
    左後部のフェンダー上につける足場(?)として, 2種類のエッチング・パーツ(PE-C5とPE-C21)が用意されているが, これがどういうつもりなのか図りかねる。 個体によって違いがあるのか? 少なくともIV号D型ベースの弾薬運搬車の写真ではPE-C5の形状のようだし, E, F型ベースの車両でもPE-C21のような形状のものは見当たらない。

    右フェンダー後端に丸型尾灯(B36)の取り付け指示があるが, D型ベースの車両ではこの位置ではなかったと思われる。 ただし整備時に改修されてここに取り付けられた可能性はある。

    斧(B5又はN3)は,キットの指示のように右フェンダー前部ではなく, 後部のバール(B7又はP15)の横に置かれていた可能性もある。

    本車両のOVMや尾灯類の配置については 「IV号弾薬運搬車の形態上の特徴」 を参照のこと。

    またキットのジャッキは, IV号戦車でも後期の型(G型以降?)でよく見られるタイプに近いように思えるのだが…

  9. ステップ14, p.10
    車体左右のルーバーは,プラ・パーツとエッチングの選択式。 実車のルーバーは通常のIV号戦車のものとは別物である。 キットのパーツは(プラもエッチングも)大体実車と似ているが, いくつか疑問点がある。

    まずキットでは横方向の桟がついているが,実車にはないようである。 また縦方向の仕切りが等間隔に配置されているが, 実車では等間隔ではない。 さらに,キットではルーバーの裏にメッシュ(PE-B7)をつけるようになっているが, 写真で見る限りこれは実車には存在しないように思われる。 ただ,メッシュをつけないとエンジン・ルームが素通しで中が丸見えになってしまうので, 目隠しのためにあえて付けてみるか?

    ノテック・ライト(B33, B34)はD型ベースの車両(#362)では写真では確認できない。 ただし整備時に改修されてここに取り付けられた可能性はある。

  10. ステップ15, p.11
    消火器(A13)の代わりに,ここにもう1個の予備キャタピラが置かれていた可能性あり。

  11. ステップ24, p.16
    パーツを貼りあわせてクレーンの滑車を作るが,必要な個数が記されていない。 C-C,D-Dともに3組づつ作る。 また貼りあわせて良く乾燥させたあとで, 細い丸ヤスリで滑車の溝の幅と深さを拡張しておいたほうがよい。 溝が十分深くないとワイヤが滑車の外周からはみでて, エッチング製のカバー(PE-B3, PE-C7)が取り付けられなくなる。

  12. ステップ26, p.17
    H33の向きが違っている。 正しい方向は写真のように90度横向き。

  13. ステップ28, p.18
    クレーンのワイヤの張り方が, 当サイトでの考察 とは異なっている。 当サイトが絶対正しく,キットが絶対間違い,とまで主張するつもりはないが, 一応当方としてはこちらのほうが実車写真と辻褄が合うと思っている。

    このステップの図では, ワイヤを張ったあとで滑車部分のカバー(PE-B3)を取り付けるように見えるが, 実際にはそのような手順は困難と思われる。 ワイヤを張る前に付けてしまいたい。 カバーを先につけてしまうとワイヤが張りにくくなる様にも思えるが, ステップ24で滑車の溝を十分拡張しておけばちゃんと通る。

    なお滑車カバー(PE-B3)は残念ながら形状に不具合があり, そのままでは取り付けの際に合いが悪いのと, ワイヤを張れないという問題 (組立説明書のとおりにも,当サイトのやりかたでも,どちらでも) がある。 左写真の赤い部分を除去する。


  14. ステップ29, p.19
    ステップ28のPE-B3と同様に, もう一つの滑車カバー(PE-C7)もワイヤを張る前の段階でつけてしまった方がよい。 このPE-C7も, 取り付けの際に右写真の赤い部分を現物合わせで少し削って調節する。
    砲弾のグリッパは,プラ・パーツ(H7, H14, H19, H20)とエッチング(PE-B1, -B2)の組み合わせか, エッチングのみ(PE-B1, -B2, -B11, -B12, -C3, -C4, -C12, -C13, -C19, -D3, -D4, -D5) で組むかの選択式になっている。

    エッチング・パーツでは以下の点に注意。

    1. PE-C4とPE-D3にはリブ(PE-B12)を取り付けるための切り欠きと溝があるが, この位置がずれている(写真右)。 PE-D3の切り欠き位置の方が正しいようである。 またリブ(PE-B12)はあまりに小さくて薄く実感に乏しいので, 金属片なりプラ板で自作したほうがよいかもしれない。
    2. PE-C3とPE-D4の長さが合わない。 PE-D4の方が長いので,切って調節する。

    プラ・パーツには以下の問題がある。

    1. H7とH19, H20を素直に組み合わせるとパーツの位置関係がおかしなことになる。 H19, H29の一部を加工してH7がそこに差し込まれるように修正する。


    修正前

    修正部分

    修正後

    プラとエッチングを比較すると (下写真ではどちらにもPE-B1, -B2を取り付けていない), 両者で形状,寸法が結構違ってしまっていることがわかる。 またエッチング製の方は実物の写真と比べて各部が薄すぎように思う。


    エッチングPE-D4とプラ・パーツH19の比較

    PE-C3, -D4を組んだ物とH19の比較

    どちらを使うにしても,省略されているディテールを少々追加をすると良いと思う。 特に4箇所にあるハンドルは目立つので効果は大きい。

    エッチングの組み立てにはかなり慎重さが必要。 下手をすれば簡単に歪むだろう。 半田付けをするにしても瞬間接着剤を使うにしても, 砲弾をジグにつかうのが良いと思われる。 今回は半田付けをしてみた。 まずグリッパ両端の大型の丸い爪部分を砲弾を土台にして組み, 中間のリンク部分は別に作ってから, 全体の位置関係を調整しながら砲弾上に全部をブルータックを使って固定しておいて半田で止めた。 熱を加えるのであるからジグにする砲弾はもちろんアルミ製。

(以下気が付いたら随時追加する予定)


◆製作記◆

D型ベースの車両(#362)のできた部分を掲載してみます。

クレーン部

ほぼキットのままですが,下記の点に手を加えてあります。

  1. クレーン頂部およびクレーン支柱頂部のプーリ(滑車)軸は, 今後ワイヤを張ったときの強度を考えて真鍮線で置き換えた。

  2. クレーン支柱頂部の2本の角(?)を真鍮線で置き換えた(写真1)。

  3. クレーン支柱に銘板(?)らしきプレートを貼った(写真1)。 実車写真を見ると,車両によって取り付けている位置に差異があるようで, 反対側についている車両もあった。

  4. クレーン支柱基部は, キットでは可動(支柱を倒した状態にすることが可能)するように組めるが(写真2〜3), ここだけ可動にしても意味がないので固定し,かつ強度を考えて軸部分を真鍮線にした。

  5. 型抜きの方向の関係で斜めになってしまっているモールドを削り落として再生した(写真4〜5)。

  6. モールドの弱いボルト,ナットなどを一旦削り落として再生した(写真1,5)。 ただし,実車でどのような大きさ,形状のボルト類なのかはよくわからなかったので, あくまで雰囲気重視で。

  7. 四角い箱(電装関係?)の下から配線状のものが伸びているので適当にデッチアゲ(写真6)。

  8. キットでは, クレーンのギヤ・ボックス部(?)の高さがクレーンの土台よりも一段高くなっている (写真7の赤矢印)。 実車でどうだったのかこの部分は判然とせず, 既存のキットの中には CMKのレジン・キット のように同じ高さにしているものもある。

その他にモールドの甘い部分に一部手を入れているところもあります。


写真1


写真2


写真3


写真4

写真5

写真6

写真7

弾薬庫

弾薬庫内部,特に床面(上部構造物天面)がどのようになっていたかは, はっきりしたことはわかっていません (「IV号弾薬運搬車」のページ参照)。 キットは床面に砲弾の置き台と,エンジン・ルーム用のルーバーをモールドしています (写真11)。 細部がわからないのでこのままでもいいのですが, 今回はPanzer Tracts No.17(資料[64]) の記述から類推して, 「IV号戦車と似たエンジン・ルーム用の開閉ハッチがあった」と推定して工作をしてみました。

Panzer Tracts No.17の記述は実車のマニュアルの翻訳のようで,下記のような説明があります。

  • ラジエータと冷却ファンがエンジン・デッキから吊り下げられて設置されている。
  • エンジン・デッキのハッチを通してラジエータと冷却ファンは取り外すことが出来る。
  • 冷却水の補給口と補助エンジンの燃料注入口のための専用開口部がある。

文章だけなのでどう解釈するかには自由度がありますが, 上記の記述は通常の戦車型のエンジン・デッキ部分の様子とよく合致するように思います。 唯一ちょっと気になるのはラジエータがエンジン・デッキから「吊り下げられている」という点です。 通常のIV号戦車ではラジエータは車体側に固定されており,上から吊られているわけではありません。

写真12はタミヤのIV号H初期型のキットですが, Aのハッチの下側には冷却ファンがつけられており, ラジエータはBのハッチの下にあります。 またCのハッチを開けるとラジエータへの注水口が, Dは補助エンジン用燃料タンクの注入口となっています。

カール用弾薬運搬車はクルップ製のIV号戦車のシャーシの上に ラインメタル社によって設計された車体上部を載せたもので, シャーシそのものにはほとんど手を加えられていないようなので, エンジン・ルーム内部のレイアウトに特に変更がないとすれば, ハッチ類の配置も略同であったと想像できます。

そこで,写真13〜14のように床面を自作してみました。 A, Bの大型ハッチが左右にあることにしました (写真ではプラ板の白が飛んでよくわからないので, ハッチの筋彫り部分を青線でなぞってあります)。 ただしBのハッチの開く方向は戦車型とは逆にしました。 本車の場合弾薬庫は壁で囲まれるので, ハッチを開いて作業をする場合を考えると, この方が作業性がよいのではないかと推測(妄想)した結果です。 ヒンジやCのラジエータ注水口部分の小ハッチはタミヤのキットのパーツを複製しました。 Dの補助エンジン用燃料注入口は, 戦車型では単純な丸蓋でおそらく蓋自身がねじ込み式になっていたと思われますが, ちょっと雰囲気を変えて車体側面のメインの燃料注入口と同じようなヒンジ式のハッチにしてみました。 ハッチが開く方向は作業がしやすいと思われる向きにしました。


写真11:キットの弾薬庫床および壁面パーツ


写真12:タミヤIV号戦車H初期型のエンジン・デッキ


写真13


写真14

A, Bのハッチにはルーバーはつけませんでした。 IV号戦車のエンジン・ハッチにルーバーが設けられたのは1941年にDAK仕様に改修されたD/E型が最初で, 標準装備になったのはF型以降です。 カール用弾薬運搬車が設計されたのは1939〜1940年であるため, おそらくルーバーを設けるという発想はなかったのではないか,というわけです。

また戦車型ではA, B, Cのハッチには長方形の鍵穴プレートが設けられていますが, 本車の車体上部はラインメタル製なので, ここも雰囲気を変えて鍵穴のかわりに開閉用のレバーをつけてみました。

弾薬庫内部に関しては何が真実なのかはわかりません。 ヒンジのついたハッチではなく,ボルトで留められたパネルが存在した可能性もあると思います (もしパネルなら,開ける際にはクレーンが必要になりますが, 本車には立派なクレーンがあるので問題なし!)。 が,一応私としては自分の推理は「もっともらしい」解のひとつであるとは思っています(笑)。 もちろんキットが正解である可能性もあります。

車体上部

側面のルーバーは結局全部自作しました。 仕切り位置を実車写真を参考にして調整し, 上部の斜めの「ひさし(?)」部分が少し左右にはみ出しているようにしてあります。 写真でよくわかるようにエンジン・ルーム内部が素通しで見えてしまうので, ラジエータや冷却ファンなど一部のインテリアを作ってみるか思案中です。

ルーバーの前には雑具箱(工具箱?)があります。 キットのパーツは表面に南京錠のモールドもあるなど, かなり正確だと思いますが, ウィング・ナットや, 板金加工で製作され縁の折り返しがある扉や側面板の様子を表現したくて, モールドを一度削り落としてちょこちょこ手を入れてみました。

前部上面のハッチ2枚は鍵穴などを削除しました。 上の方で書いたように,この部分の詳細についても確証があるわけではないのですが, あえてキットとは違う解釈としてみました。 またヒンジのモールドが貧弱なので削り落とした上, 手持ちのジャンク・パーツから適当なものを切り取ってきて接着してあります。

弾薬庫の支持架は,プラとエッチングの両方が用意されていますが, エッチング・パーツに適当なボルトとナットをつけて使うことにしました。 キットではボルトもエッチングで用意されていますが, 薄くて実感に乏しく思ったので。 なお,実車では支持架の水平部分にはボルト,垂直部分にはナット,と種類が違ってます (プラ・パーツでは両部分ともにボルトがモールドされています)。

車体後面

  1. ラグ基部を修正。
  2. 冷却水交換用蓋を除去。
  3. 省略されているリベット3個を追加 (マフラーをつけてしまうと見えなくなるので結局は骨折り損でした)。
  4. 補助エンジン・マフラーのパイプを真鍮棒で作り変え, エンジン・ルームに接続しているように曲げた。
  5. 丸型尾灯を実車写真を参考にこの位置に装着。
  6. 誘導輪基部を少しディテール・アップ
  7. PE-A10はだいたいこの位置
  8. 冷却水排水口の支持部を追加。
  9. マフラーの不要なベルトを削り落とした。

冷却水排水口の支持部と同じように, 排気管のガードの支持部をつけたかったのですが, スペースがなくて断念しました。

以下続く。


■メーカー・サイト■

Trumpeter Model
更新の頻度はあまり高くない

Interallied
日本国内代理店


■レビュー,製作記事■
  1. http://www.perthmilitarymodelling.com/reviews/vehicles/trumpeter/tr00362.htm
    オーストラリアの Perth Military Modelling Site に掲載のキット#362のレビュー記事。 ドラゴン,トライスターのIV号戦車D型キットとの比較も行っている。
  2. http://www.perthmilitarymodelling.com/reviews/vehicles/trumpeter/tr00363.html
    こちらは同サイトのキット#363のレビュー記事。 一部にちょっと疑問の残る指摘もある。
  3. Master Modelers, Vol.46, 芸文社, 2007.
    トランペッターのカール(#215)と弾薬運搬車(IV号D型ベースの#362)のレビュー記事。
  4. モデルアート, No.727, 6月号, 2007.
    弾薬運搬車(#362)のレビュー記事。
  5. Fine Scale Modeler, Vol.25, No.6, July, Kalmbach Publishing Co., 2007.
    弾薬運搬車(#362)のレビュー記事。
  6. モデルアート, No.742, 2月号, 2008.
    11転輪のカールと弾薬運搬車(#362)の製作記事とジオラマ。


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Created: January 21, 2007
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