To English Version

■ホビーボス1/72 IV号弾薬運搬車■


#82907
German Munitionsschlepper Pz.Kpfw. IV Ausf. D/E

#82908
German Munitionsschlepper Pz.Kpfw. IV Ausf. F

2008年2月のニュルンベルク国際トイ・フェアで発表された待望の新製品である。 これまで1/72のカール用弾薬運搬車のキットは ハセガワのキット が唯一のもので, 30年以上も前の製品であるために各部に問題も多かったので, このホビーボスのキットへの期待は大きい。


◆製品内容◆

二つのキットは下表のようなパーツから構成され,ともにパーツ総数約130点となっている。

#82907 Ausf D kit #82908 Ausf F kit
シャーシ,上部車体 共通
転輪 Aランナー Bランナー
弾薬庫,クレーン他 E, Fランナー
その他細部パーツ Cランナー Dランナー
キャタピラ ベルト式
(380mm幅タイプ)
ベルト式
(400mm幅タイプ)
その他 ワイヤ用糸50cm

#82907 Aランナー #82908 Bランナー #82907 Cランナー #82908 Dランナー
#82907/#82908 Eランナー #82907/#82908 Fランナー #82907/#82908 シャーシ #82907/#82908 車体上部
#82907/#82907 クレーン・ワイヤー用糸

前作の1/72カールと同様に, トランペッターの1/35製品 をスケールダウンして開発されているようである。 全て同じになっているというわけではなく, 省略されている部分もあるが, 各部の解釈は同じである。 トランペッターの弾薬運搬車は非常によくできているので, お手本としては申し分ない。

モールドの印象はよく,ディテールも豊富である。 最近のドラゴンやレベルの1/72キットのような切れの良さはないかもしれないが, 十分合格点だろうと思う。 ただし押し出しピン跡は各部に散見される。 入手したキットには大きなバリはなかったが,一部のパーツ表面に傷や荒れがあった。 また,パーツの位置決めのためのボスやボス穴が適宜設けられているのはよいのだが, 合いがいまひとつ良くないところが少なくない。

なお,シャーシや転輪類のパーツに関して, トランペッターの1/72製品にあるIV号戦車系列のキットからの流用ではないか, との指摘が一部のネット掲示板で取りざたされていたが, 上表のシャーシ,A, Bランナーは全くの新規部品で, 今回のキット用に開発されたものである。 キャタピラは#82907に含まれる380mmキャタピラは新規開発, #82908の400mmキャタピラはもしかするとトランペッター製品からの流用の可能性はある。

#82907 38cm幅キャタピラ #82908 40cm幅キャタピラ

車体

シャーシ,車体上部ともに一体成型で, あと後面など3つのパーツをつければ車体の基本形はできてしまう。 #82907, #82908の2つのキットで, 車体前部のブレーキ点検用ハッチ,起動輪,下部転輪,誘導輪, 排気管,補助エンジン用排気管,キャタピラなど, 実車のベースとなったIV号戦車D型シャーシとF型シャーシの違いもよく再現されている。 写真は#82907,D型シャーシの車体である。

なお#82907の製品名称はD型シャーシとE型シャーシの選択式であるかのような印象を与えるが, 実際につくれるのはD型シャーシのみである。 どうしてもE型ベースの弾薬運搬車を作りたければ, #82907, #82908の両方のキットからパーツを集めればE型に近い形態は製作可能である。 その場合,#82907から持ってくるパーツは,誘導輪,キャタピラ,排気管,補助エンジン用排気管, #82908からは,起動輪,下部転輪,車体前部上面(D1)を使う。 他のパーツはどちらのキットでも同じである。

#82907 Pz.IV ausf Dシャーシ

フェンダー上の各種OVMや予備キャタピラの多くはフェンダーに一体成型されており, 一部,消火器,ジャッキなどだけが別部品となっている。 それなりに彫りも深く立体感はあるが, やはりすべて別パーツであったほうがよかったと思う。

実車のOVMの配置には不明部分もあり, 何が正解なのかはなんとも言えない部分もある。 当サイトでの考察結果は 弾薬運搬車のページ に掲載してあるが, ホビーボスのキットはやや異なる解釈で配置されている。 ただし下記の点だけは明らかに間違いだと思う。

  • 組立説明書では,履帯工具F25を #82907 D型シャーシ・キットでは取り付け, #82908 F型シャーシ・キットでは取り付けないように指示されているが, 実車ではこの逆で,F型シャーシの場合にのみつけるべきである。 D/E型シャーシの弾薬運搬車では, 履帯工具はキットのF25とは違う形状の, IV号戦車A-E型で使用されていたのと同じものが使われていた。 キットにはこのタイプの履帯工具は含まれていないので, 気になるなら自作する必要がある。
  • 左フェンダー前部には,C型のクレビスが一体成型されているが, 実車では,D/E/F型シャーシのいずれの弾薬運搬車でもS型のクレビスである。 フェンダーに一体成型されているので,修正は面倒なのが残念。

弾薬庫

弾薬庫は床と前後の外壁をスライド金型で一体成型した本体と, 側壁2枚と天板の4個のパーツから構成されている。 本体内側には目立つ押し出しピン跡や, 金型の仕上げ不足と思われるパーツ表面の荒れがあった。

このキットの最大の「?」は弾薬庫側壁と天板のハッチがすべて一体成型されており, 弾薬庫を「開けた」状態を作れないことである。 これではカールの横に置いて楽しむには興ざめと言わざるを得ない。 実車では弾薬庫を密閉してあるのは移動時(箱絵のような状態)のみだろうと思われることと, 1942年頃以降ではこれらのハッチを取り払ってしまっている車両があるので, やはりハッチは別パーツにして欲しかった。

おまけにハッチの分割ラインがほとんどモールドされていない! 設計者は実車のことを何も知らないのだろうか? 分割ラインがどこにあるべきかについては, 下の写真を参照のこと。 ハッチを切り離して弾薬庫を開けるにはこのラインに沿ってパーツを切り離せばよい。

実車の弾薬庫内部の様子についてはほとんどわかっておらず, キットでも砲弾の架台とエンジン・ルーム上面のルーバー程度のモールドしかない。 あっさりしていて物足りないが,これは 1/35のトランペッター製品 と始めとする先行製品でも同じことである。 本サイトでは, 弾薬庫内部床面にはエンジンのメンテナンス用に各種ハッチがあったはずである, という見方から, いくつかのパターンについて考察してみた。 詳しくは IV号弾薬運搬車のページトランペッター1/35弾薬運搬車ハセガワ1/72弾薬運搬車 をご覧いただきたい。



弾薬庫側板,天板 弾薬庫側板,天板
ハッチ分割ライン
弾薬庫側板,天板:裏面 弾薬庫側板,天板:裏面
ハッチ分割ライン

クレーン

少ないパーツながら結構精密な印象を与える。 古いハセガワのキットとは段違いである。 スケールと型抜きの関係か, ボルト類が省略されている部分もあるが, これでも十分ではないかと思う。

キットにはクレーンに張るワイヤ用として糸が含まれているが, 少し太めであるので,木綿糸などもう少し細い糸を使いたい。 またワイヤの張り方に関しては組立説明書の図はわかりにくい。 弾薬運搬車のページ に本サイトの解釈を図示してあるので参考にしてみてほしい。

砲弾

60cm重ベトン弾が4つ用意されている。 カールの砲弾には, 60cm重ベトン弾,60cm軽ベトン弾,54cm軽榴弾,54cm軽ベトン弾があり, ホビーボスのカールのキットは 60cm砲と54cm砲の選択式になっているのであるから, 60cm重ベトン弾以外の砲弾も用意してほしかった。

60cm重ベトン弾の底部まわりには8個の穴が開いている。 キットでは再現されていないので是非ピンバイスで開けてやりたい。

砲弾のグリッパも60cm重ベトン弾用1個のみである。 グリッパはクレーンのフックと一体成型で4個のパーツから構成されている。 組み立てには砲弾をジグがわりにするとやりやすい。

なおこのグリッパは未使用時には車体前部に設けられた架台に載せられているのであるが, この架台のパーツは省略されている。 トランペッター1/35弾薬運搬車キットにはこのパーツがあり, また箱絵にも描かれているので, そのあたりを参考に自作したいところである。

その他

エデュアルドから販売されている ハセガワ1/72キット用のエッチング「#22065 PZ.IV Munitionwagen」が, 本キットに使えるかが気になるところだが, 結構使えそうである。 特に,弾薬庫の前後と側面,上面のハッチがすべて用意されているので, 本キットの厚いパーツを置き換えてシャープに仕上げることができる。 (ただし,エデュアルドのパーツはハセガワのキットに合わせてあるので, 弾薬庫の外形がわずかにホビーボスのパーツとは違うので調整は必要である。) また,フェンダーも入っているので, ホビーボスのフェンダーに一体成型のOVM類が気に入らない場合には便利である。

デカールは用意されていない。 カール用の弾薬運搬車にはほとんどマーキングなどが施されている例はなく, 唯一1941年ごろに部隊マークらしきものがフェンダー前端と弾薬庫後面に描かれていたことがあるらしいことと, 1942年ごろの一部の車両の側面にニックネームらしき文字が認められる例があるぐらいである。 いずれも詳細が不明だけに,デカールを用意できなかったのではないだろうか。

なお,2つのキットとも箱絵は弾薬庫のハッチをすべて閉じ, クレーンを折りたたんで走行中の様子が描かれている。 前述のとおり,弾薬庫はハッチが閉じられた状態でパーツ化されているものの, クレーン支柱を折りたたんだ状態に組むオプションは組立説明書には示されておらず, 箱絵とキット内容に若干不整合があると言わざるをえない。


◆ディテール・アップの例◆

■シャーシ後面
  1. 誘導輪基部に大型のナット,L字型のハンドルなどのディテールを追加。
  2. 冷却水交換用の丸い蓋は,1942年秋以降生産の車両に追加されたものなので, 本車にはなかったと思われるので削除。
  3. 後部牽引ホールドの基部のが車体中央に寄り過ぎて, 牽引ホールド自体に接しないので外に寄せる。
  4. 後部マッド・ガードの内側に写真のように切り欠きをつける。
  5. IV号F型ベースの車両(#82908)の場合, マフラー(D3)の排気口が上を向いてしまっているので, 下向きに修正。
  6. 同じくIV号F型ベースの車両(#82908)で, 補助エンジン用マフラー(D2)に延長された排気口を追加。 なお実車のこのあたりの詳細はよくわかっていないので, 形状や長さについては推測するしかない。




■シャーシ前部
  1. ファイナル・ギヤ・ドライブ・カバーの前面に, 追加装甲板とボルト7個を追加(#82908)。 D型ベース車両(#82907)の場合には, 追加装甲はなしで,ボルト6個のみ追加。
  2. 砲弾グリッパを置く台を追加。

■車体上部
  1. 車体左右の雑具箱?(E16)の蓋のヒンジを追加。
  2. 弾薬庫後面に,クレーン・アーム格納時のロックを追加。 さらにF型ベースの車両では,この下部にリブを1本追加。


◆ハセガワ1/72との比較◆

真ん中がホビーボス#82907 "Munitionsschlepper Pz.Kpfw. IV Ausf. D", 向かって右がハセガワの旧カール・キット(ミニボックスシリーズNo.33,1976年発売) に付属の弾薬運搬車, 左がハセガワやドラゴンのIV号戦車系列のパーツ, エデュアルドのエッチングを使って ディテール・アップした例 である。

車体や弾薬庫などには,ホビーボスとハセガワの寸法的な差異はほとんどないが, クレーンやディテールの差は歴然である。


◆組立説明書の補足◆

以下の補足事項は,特に指定がない限り#82907, #82908で共通である。

  1. ステップ2
    シャーシとシャーシ後面E10の接合には擦り合わせが必要。 誘導輪軸は短く,誘導輪の取り付けが不安定になるので, 金属線などを利用して確実に取り付ける。 さもないとキャタピラのテンションで曲がったり取れたりする恐れがある。

  2. ステップ6
    組み立て説明書では,キャタピラ工具F25は,#82907 D型シャーシの場合に取り付け, #82908 F型シャーシでは取り付けいないように指示されているが, 実車では逆で,F型シャーシの場合のみ搭載されている。

  3. ステップ7
    車体上部左右につく雑具箱(?)E16は左右を少し削り込んでおかないと, あとで弾薬庫F33を載せる際に干渉する。


全体的に良く出来ているキットである。 現時点でこのスケールのカール用弾薬運搬車の決定版と言ってよいであろう。 弾薬庫が閉状態であるとか, OVM類がフェンダーと一体成型である点は残念だが, 修正可能であるので大目に見たい(笑)


■メーカー・サイト■

Hobby Boss


Home
Karl-Geraetに関するページ
Copyright 2008 (c) Geraet040, All Rights Reserved.

Created: Saturday July 26, 2008
Last Update: